『駆け込みポーカーフェイス』
はぁ……、はぁ……、はぁ……。ヤバい。こんな日に限って……。でも今日は、絶対遅れられない!走れば間に合う、ハズ。でも、こんなに走ったの、いつぶりだろ。もう背中大汗。ハッ、やばい!たくさん人が階段から下りてきた。これ電車来てるーー!階段、キツイ!脚、もうあがらない……。あとちょっと。アッ、とちょっとーーーー!!!
(プシュー)「駆け込み乗車はご遠慮くださーい」
……間に合わなかった。冷静な声のアナウンスとともに、電車の扉はわたしの目の前で無情にも閉まっていった。それと同時に、わたしはあることに気づいた。車内から扉越しに冷たい視線が、私に浴びせられていることに。ここでわたしはようやく我に返った。ミンナ・ワタシヲ・ミテイル。冷たい目で。憐れむような目で。もう耐えられない。わたしがその場でくるりと方向転換したのも束の間。その目線は、車内からだけではなかった。ホームに並ぶ、たくさんの目もわたしに向けられていた。顔はスマホに落としたまま、目だけがジロリとこちらを見ていた。さっきまでかいていたはずの汗も、一気に引いていった。ああなんて、恥ずかしい。
こういうときはどれだけ「そもそも乗る気はありませんでしたよ感」を出せるかにかかっている。そしてさっさと、ホームの一番端まで歩くのだ。登場シーンをリセットするしかない。しかしギリギリ乗れたとしても、わたしは結局皆の目線に耐えられずに車両を移っただろう。乗れても地獄。乗れなくても地獄。恥注意報発令!駆け込み乗車は、恥的にもハイリスクだった。駆け込み乗車、ダメぜったい!