「これからみんなと一緒にダンスしましょ」。ミドルテンポのトラックに乗せて歌い始めるのは、日本語詞を取り入れた楽曲で話題を呼ぶベルギーの音楽ユニットAILI(アイリ)。彼らの代表曲「Dansu」は、オランダ語、フランス語、ドイツ語を公用語とするベルギーでも広く受け入れられ、なんと同国内のシングルチャートで6週連続1位を記録した。
今回、日本でのリリース記念パーティに合わせてめでたく来日したAILIが初対面を果たしたのは、今年でメジャーデビュー5周年を迎えるラップユニットchelmico。遊び心を絶やさず、言葉と音の可能性を前向きに探ってきた2組は、お互いの楽曲に対してどのような感想を抱くのだろうか。
取材はまず、AILIボーカルのアイリ・マルヤマとビートメーカーのTransistorcakeことオルソンが、chelmicoの「Easy Breezy」と「12:37」を聴くところからスタートした。
オルソン・ウッターズ
(曲を聴き終えて)すごく格好良かった。ポップやロック、エレクトロ、そしてラップの要素がうまく融合していて。すべてがそこにあるべきもの、という印象を受けました。
アイリ・マルヤマ
2曲とも独特なサウンドで、今までにあまり聴いたことのないような音楽だった。日本語の乗せ方もすごく興味深い。
Rachel
大好評!やったあ。
Mamiko
2人のコメント、そのまま全部載せてください。
アイリ&オルソン
(笑)。
Rachel
でも、自分もAILIの音楽に対して同じことを思ったかも。一つのジャンルで括れない感じがした。
アイリ
確かに。私たちの音楽は、ざっくり言うとエレクトロニカや電子音楽のカテゴリーに入るんじゃないかな?「Dansu」って曲についてはよく「クラウトロックの影響を感じる」とも言われる。常に揺らいでいる感じかな。
オルソン
CDショップに並べられるとしたら、僕たちの音楽はエレクトロポップかダンスミュージックの棚に入れられるかもしれないね。でも、実際はその中間くらいかも。
Rachel
今はストリーミングサイトとかで、色々なジャンルのプレイリストに曲を入れられるからいいよね。昔だったら、どこか一つのジャンルに絞らなくちゃいけなかった。
Mamiko
chelmicoのCDを一つの棚に置くなら、J−HIP HOPかな?
Rachel
うん、J−RAP。もし「ヒップ・ポップ」があったらそっちにしたいけどね(笑)。AILIの2人は日本の音楽を結構聴く?
オルソン
そこまで詳しくはないんだけど、日本盤で自分たちの曲をリミックスしてくれた大沢伸一さんのアルバムや、吉村弘さんの音楽は聴いていました。
Mamiko
吉村弘さん、私もめっちゃ聴いてた。いいよね。
アイリ
『MUSIC FOR NINE POST CARDS』が有名かな?
オルソン
ほかに知っているのは、TERIYAKI BOYZ。
Mamiko
えー⁉
アイリ
『BEEF or CHICKEN』のレコードを買ったんだよね。
Mamiko
最高〜!ウチらは初期、自分たちの曲がなさすぎて、ライブでTERIYAKI BOYZをコピーしてたの!
Rachel
しかもオケがないから、お客さんにクラップさせて(笑)。
Mamiko
度胸あったよね〜。絶対もうできない。ところで2人は最初、どうやって音楽を始めたの?
アイリ
自分はもともとギターを1人で弾いていたんだけど、同じ町に住んでいたことをきっかけにオルソンと知り合って。一緒に音楽をやろうとなったのは8〜9年前かな?
Rachel
1人で作った楽曲は、どこかにアップロードしたり、誰かに聴かせたり?
アイリ
いや、お母さんとオルソンに聴かせたくらい。
Rachel
それでオルソンが「いいね」ってなったんだ。
オルソン
もちろん。それは常に思っています(笑)。
Mamiko
可愛い〜。
オルソン
最初に聴いた時からすごくいい声だなと思ったし、独特な音楽性も感じて。初めの段階でつながりや、やりやすさを感じたからこそ今があるんだと思う。
アイリ
オルソンは小さい頃から音楽を本格的に勉強してきた人だから、DIYな自分とはバックグラウンドが全然違って。でも、それが良いバランスになっている気がする。お互いを補い合いながら、末長く一緒に活動していきたいな(笑)。
Mamiko&Rachel
うんうん!
言葉選びの楽しさ、難しさ
Rachel
AILIの音楽は日本語の歌詞も独特で面白かった。けど、アイリさんは普段そこまで日本語をしゃべらないと知ってびっくり!発音がうまくて。
アイリ
(日本語で)7歳まで日本に住んでいたから、簡単な会話ならできると思う。でも敬語とか、取材はちょっと難しくて。すみません。
Mamiko
いや、全然上手!
Rachel
でも、なんで日本語を音楽に取り入れようと思ったの?
アイリ
まずは前提として、父が今も日本に住んでいるとか、自分のアイデンティティとの関わりがあって。そのうえで、ふと音楽にも日本語を取り入れてみたら、ビートとの相性の良さを感じたんだよね。
オルソン
日本語には、どこか独特のリズムがある気がする。リズムの中にエネルギーを感じるというか。
Rachel
面白いね。日本語は音にハメるのが難しい感じがして、自分たちはいつも苦労していたから。逆に英語とか、日本語以外の言葉に憧れてた。
Mamiko
韓国語とかもハマリがいいっていうよね。
アイリ
私は日本語の歌詞をすべて理解しているわけではないけど、日本のラップを聴くと、言葉同士をつなげたり、発音を変えたりすることで良いフローが生まれているなと感じる。
Rachel
言葉をうまく音にハメるために、発音でちょっとズルする時はあるよね。例えば「わたし」を「あーし」って言うとか。あとは「ありがとう」を「argato」みたいに発音して、短く滑らかにしたりとか。
Mamiko
「Eazy Breezy」の「鳥、鳴いてら」って歌詞とかも、曲の中では「鳥、鳴いてンら〜」ってべらんめえ口調みたいに発音してる。
Rachel
でも、そうやって普段苦労している日本語の響きのことを、AILIの2人がポジティブに捉えていたのが新鮮だった。
アイリ
日本語に対して違う感覚を持ったまま一緒に音楽を作ったら、お互いに刺激になるかもしれないね。
Mamiko&Rachel
絶対にコラボしましょう!
アイリ&オルソン
ぜひ!
chelmicoがAILIに薦める、日本語が楽しい楽曲
「click on u」yuzuha
アーティストチーム〈XPEED〉のメンバーとしても活動するyuzuha。SNSで、新アルバムの制作中であることも明かした新星の動きに、注目が集まる。「最近歌詞がいいなって思ったのはyuzuha!」(Rachel)
『アワー・コネクション』いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー
細野晴臣を擁する伝説的バンド〈ティン・パン・アレー〉とシンガーいしだあゆみを中心にした豪華な一枚。「歌詞面白いし、曲がマジでいい」(Mamiko)。中でも朗読風の歌い出しが耳に残る「私自身」がおすすめだとか。
AILIがchelmicoに薦める、ベルギーの最先端アルバム
『Morale 2』Roméo Elvis & Le Motel
ブリュッセルのレーベル〈Maloca〉を創設した音楽プロデューサーであり、近年は映画音楽も手がけるLe Motelの代表作。「本当にいろんなことをやっている人だから、ぜひほかの作品と聴き比べてみて」(アイリ)
『Coconut Oil』Azertyklavierwerke
2人が太鼓判を捺す、ベルギーの電子音楽家Azertyklavierwerke。一綴りの迫力ある名前に、取材時は驚きの声が。「音源はもちろん、ライブだとさらに魅力的。ビートや鍵盤を1人で操る様子をぜひチェックして」(オルソン)