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相方未満 第2回:蛙亭・イワクラ × さや香・新山

コンビではないけれど、特別な繋がりを持つ二人。普段は別々に活動しながら時々行動を共にしたり、笑いの感覚を共有したり……。そんなお笑い芸人2名を招く連載『相方未満』。第2回ゲスト〈蛙亭〉イワクラさんと〈さや香〉新山さんによる対談を、本誌掲載分より拡大してお届けします。

photo: Kotori Kawashima / text: Shunsuke Kamigaito

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ネタでもなんでも相談する

新山

イワクラとは大阪NSC時代の同期やけど、在籍時はほぼしゃべってないよな。クラスも違ってたし。

イワクラ

うん。当時の新山は〈ファイヤーサンダー〉の﨑山と〈オリオン〉ってコンビ名で活動してて、なんとなくいけ好かない印象があったから、距離を置くようにしてた(笑)。共通の同期から、ネタは面白いっていう噂は聞いてたけど。

新山

こっちも芸人になったばっかりでビンビンの時期やったからな。基本的には誰とも仲良くせえへん、みたいなスタンスやった。

イワクラ

でも、後に相方になる〈さや香〉石井ちゃんとは普通にしゃべってて。NSC卒業後に新山と新しいコンビ組んだって聞いてネタを観たら、めちゃくちゃ面白かった。

新山

転校生の女の子がオナラしちゃって、隣の席の男の子が「自分がやった」って庇うコントね。昔オーディションで1回だけ披露したやつ。ほんまにコンビ組んで1本目か2本目に作ったネタちゃうかな。

イワクラ

そう。そのコントが面白すぎたから、ネタでもなんでも相談するようになった。新山は、私が深夜に泣きながら電話しても冷静にアドバイスしてくれるし、安心感がある。

新山

俺らはよく電話で話すよな。そういうとき、イワクラはけっこうどうでもいいウソついてくるけど、僕はそれも全部理解したうえで聞いてる。でも、「さすがにホンマやろ」と思っていたことでも、後から確認したらやっぱりウソやったとわかって、「そりゃそうやろな」と勝手に納得することもありますね。

イワクラ

いつもありがとう。

新山

相談系の話題が多いけど、やっぱり基本はネタの話が多いかな。

イワクラ

お互いネタの設定を話して、「それ、めっちゃ面白いやん!」とか言い合ったり、意見交換したり。私は新山がネタ中にする顔の演技が好きだから、そういうときに「もっとやって」とリクエストしたこともある。

新山

自分でも気づいてない面白さを客観的に教えてくれるのは助かる。でも、それを自分からはネタにできへん。俺の演技やキャラに対して、イワクラが面白がってるポイントはなんとなくわかるけど、そこを軸にして設定を考えるんが難しくて。

イワクラ

新山は頭が良くてしゃべるのも上手だけど、私は説明ができなくていつも感覚的にしか伝えられない……。でも、新山の顔の演技は本当に面白い。もっとちゃんと言葉で伝えられたらいいんだけど。

新山

大阪時代のエピソードで印象に残ってんのは、イワクラが自宅でそうめんを茹でてくれたことやな。「いいそうめんを手に入れた」とか言って家に招待してくれたのに、明らかに茹ですぎて麺がくっついたそうめんが、サッカーボールくらいの大っきい塊になって出てきた。それを同期みんなでイジってたら拗ねたよな。拗ねるなよ。

イワクラ

そうめん茹でたのは記憶にあるけど、拗ねたことは全然覚えてない。けど、NSC卒業後も私の家によく同期で集まって、いろんな話してた。あと、〈TSUTAYA〉で新山が借りてきたDVDをみんなで観たのも覚えてる。『コンプライアンス 服従の心理』って映画、やたら長いシーンがあるからみんなで「絶対に伏線や」と言ってたら、特に何もなくエンドロールが流れて爆笑したよな。

新山

そんなことあったっけ?ごめんやけど全然覚えてないわ(笑)。

蛙亭・イワクラ、さや香・新山
〈さや香〉新山(左)と〈蛙亭〉イワクラ(右)。

ムカつきが笑いのエネルギー

イワクラ

二人の共通点は、自分がムカついたことをエネルギーにしてネタを作っているところだと思う。世の中に対して言いたいことがあるというか。

新山

そうやな。ただ、〈蛙亭〉のほうがムカつきを素直にコントに落とし込めている気がする。イワクラは、怒りをそのまま笑いに変えるのがうまいなって前から思ってたよ。俺の場合、自分の言いたいことを軸にネタを書き出すと、個人的な感情が先走ってウケない。

ただ気持ちを発散するだけのネタになってしまうというか。だから、漫才中に本当に言いたいことを言えるようになるのが理想的。『M-1グランプリ』でやった「免許返納」ってネタがそれに近いかも。

イワクラ

なるほどね。でも、新山は『M-1』とか何回も出てるけど、そのたびに面白くなってるのがすごいよ。〈さや香〉の漫才は完成したと思っても、さらにその上を行って「まだまだいけるんや!」って。いつも刺激をもらってる。それこそ設定だけ聞いて笑ったネタも、漫才になったら格段に面白くなってるし。

新山

それを言うなら、そもそもイワクラたちは大阪でブレイクする前に東京に進出したのがすごいよな。しかも、キャラとかじゃなく、すでにちゃんとネタで東京の人たちに評価されてた。当時は「大阪じゃなくて東京で売れるんかい!」みたいな驚きもあったけど、実力あってこそやと思う。

僕はビビりやから『M-1』で結果出すまでは大阪を離れんとこうと思ってたんで。その思い切りの良さは、俺にはないところかもしれへん。

イワクラ

でもお互い東京に出てきてから、収録現場とか劇場で会う機会が増えてうれしいよ。結局そこでもネタの話ばっかりしてるから、空気感は大阪時代と変わらずだね。

新山

最近はおかげさまで、どっちも忙しくてプライベートで会う機会は減ったけど、今度家にも来てな。「新山が子どもと遊べるように」って庭で遊べるプール買ってくれたやん。あれで遊んでるところ見てもらわな。

イワクラ

うん。新山とちゃんと遊んだの、〈シモリュウ〉の前田龍二と3人で映画観に行ったのが最後か。前田も一緒に連れて行くね。

“ヤバいやつ”という自覚

新山

あと、俺らは二人とも“自分はヤバいやつ”という自覚がある気がする。だからこそ、相手にどう思われるかを気にせず話せて居心地がいいんやろうな。普通だったら他人に怒られることでも、「ほんまにヤバいよな」「ヤバいよね」と、お互い言い合って終わるから。

イワクラ

私は新山がやることは大好きだし信頼もしてる。いつも新山がカラオケで歌ってるECHOESの「ZOO」を聴くのも好きだし。

新山

あれは勝手に芸人の歌やと思ってて感情がこもってるからね。

イワクラ

でも、前に〈令和ロマン〉の(髙比良)くるまと話しててハッとしたことがあって。くるまに「イワクラさんは仲良いから気づいてないですけど、新山さんって平気で何曲も続けて一人で歌うじゃないですか。あれ相当ヤバいですよ」って言われて。その言葉を聞いて、たしかに新山って……と思った。

新山

いやいや、カラオケは別にターン制じゃなくてもいいでしょ!誰も歌ってない時間がもったいない。みんなに次の曲を考える時間を提供しようと、良かれと思って歌ってるだけなんで。

イワクラ

同じことを新山以外の人にされたらめっちゃ腹立つかもしれない。冷静に考えたら、新山って“そっち側”なんだなって(笑)。

新山

いいえ。僕は効率を重視してるだけです!

蛙亭・イワクラとさや香・新山

二人が選ぶ互いのベストネタ

選者:イワクラ

『転校生』さや香
大阪時代にオーディションで披露した幻のコント。転校生の女の子のオナラを男子生徒が庇おうとする。

「関西のコントは演技を重視しない傾向があるように思うけど、さや香は二人とも“顔の演技”が最高。このネタが面白すぎて新山と話すようになりました」

選者:新山

『宅配ピザ』蛙亭
ピザ配達員の男を出迎える妖艶な女。男は誘惑に負けそうになるが……。展開が読めないコント。

「イワクラが変なキャラを演じているネタが好き。『ABCお笑いグランプリ』で見たときは優勝間違いないと思ったのに負けて、僕が悔しい思いをしました」

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