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相方未満 第1回:男性ブランコ・平井まさあき × 滝音・さすけ

コンビではないけれど、特別な繋がりを持つ二人。普段は別々に活動しながら時々行動を共にしたり、笑いの感覚を共有したり……。そんなお笑い芸人2名を招く連載『相方未満』。第1回ゲスト〈男性ブランコ〉平井まさあきさんと〈滝音〉さすけさんによる対談を、本誌掲載分より拡大してお届けします。

photo: Masanori Ikeda / text: Neo Iida

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濃密な蜜月を過ごしています

平井まさあき

大阪でもニアミスはあれど、知り合ったばかりの頃はご飯に行くとかはなかった気がするなあ。

さすけ

お互いの相方同士(滝音 秋定遼太郎、男性ブランコ 浦井のりひろ)がルームシェアしてたんで、会ったときに相方同士が喋りだすから、こちらもおのずと喋らなあかんな、くらいやったかな。

平井

そんな差し迫った感じやった? 

さすけ

ほら、あなた「全員敵」みたいな顔してたから。

平井

あの頃は俺、ナイフやったから。いや、フォークとナイフやったから。

さすけ

刺すし切るし、むちゃくちゃ怖いな。

平井

でもほんと、仲良くなったのはここ最近。今年〈滝音〉が4月に東京へ来てからよね。ここ半年くらい、濃密な蜜月を過ごしています。おさす(さすけ)は単身赴任中で、家も近いから誘いやすくて。

さすけ

下北におひら(平井)行きつけのバーがあるのよね。いつもおひらがその場にいる全員に奢るという。

平井

下北の勝新(勝新太郎)になりたくて。嘘です。

さすけ

「誰とも関わらへん」みたいな顔してるくせに、実は人が好き。嗜好がこの半年で、だいぶわかってきた。あたしがミュージシャンとか他業種の人と会うときに、おひらと合いそうな人だなと思ったら、「一緒にどう?」と声かけることもよくある。

平井

代は1期下だけど、いい意味で後輩感がない。つい最近も、おさすからLINEがポンと来たと思ったら、池袋〈サンシャイン水族館〉でやってた「もうどく展 極(Kiwami)」のポスターの写真で、「おひらが好きそう」と添えてあって。嬉しくなってすぐ「行くつもりや」と返したけど、それくらいなにげなく先輩に連絡をしてくるやつって、そうそういないよ。

さすけ

でもあたしも、おひらからLINE来たら「るるん!」となるな。「LINE!」って通知音みたいに。まあ友達やな。

男性ブランコ・平井まさあきと滝音・さすけ
男性ブランコ 平井まさあき(右)と滝音 さすけ(左)。

人知れず熱い部分があるのよね

さすけ

あと共通点としては、これまで通ってきた本のルーツが一緒でね。直木賞系の大衆小説が好きで二人ともわりと読んでいる。

平井

そう。乙一さんとかもな。確か俺らが高校生くらいの頃にデビューしていて、二人とも直撃世代。

さすけ

あたしがよく会っている〈ニガミ17才〉の岩さん(岩下優介)も本好きで、3人で集まって「あの本読んだ?」みたいな話、よくしたもんな。

平井

岩さんが、貴志祐介さんの『黒い家』を教えてくれて、見事にハマって『天使の囀(さえず)り』『クリムゾンの迷宮』も続けて読んだ。設定やストーリーに驚きのあるホラーとか、切り口が面白い系のミステリーとか、好きなジャンルも似てると思う。

さすけ

ちなみに『天使の囀り』はどういうところがお好きだったんでしょうか。

平井

えっと、天使がですね……(口ごもる)。

さすけ

読んでないやん。

平井

いや、物語の根幹に生き物が絡んでくる話なんで、どこから話そうかなって。僕、生き物が好きなんですよ。今日着てるシャツも魚柄だし。なるべく服には生き物の要素を入れるようにしてます。ワンポインツ、ツーポインツ。

さすけ

正しくは“ワンポイント、ツーポインツ”な。

平井

文法に厳しいな。逆に決定的に違うのは、他者と婚姻を結んでいるかどうか。

さすけ

「結婚してるかどうか」でしょ。そんなカチカチ言うから結婚できないのよ。そういう感覚やから。

平井

やっぱり人生のステージを、ワンステージズ、ツーステージズ……。

さすけ

“ワンステージ、ツーステージズ”。

平井

しっかりと上がっていて、泰然としてると思うね。肝据わり。肝据わり三太夫。

さすけ

肝据わり三太夫?あたし何かを襲名したん?

平井

真面目に、めっちゃ肝据わってると思う。度量があるというか。自分だけじゃなく、「仲いいやつも一緒に、みんなで楽しく上にあがっていけたらいいな」という気概を感じる。僕はわりと自分のことで精一杯だけど、おさすは客観的な目線を持っていて、イーグルアイの持ち主。

さすけ

そんな自覚はないけどな。ただ、おひらはこう見えて、腹を立てることはあるもんな。誰かにというより、物事に対して怒ってることがある。

平井

『キングオブコント』の結果とかにね。怒りながら、「糧、糧、糧、糧!」「バネ、バネ、バネ、バネ!」って思ってる。

さすけ

人知れず熱い部分があるのよね。

ブドウでネタを作れる男って、すごいよ

平井

滝音は昔から、漫才もコントもめっちゃおもろいよな。

さすけ

いや、男性ブランコこそ。『M-1グランプリ』も『キングオブコント』も両方決勝行ってるやろ。

平井

いや、滝音は早かった。まだ俺らが行けてない頃に決勝に行ってたし、賞レースがむっちゃ強いイメージある。それに、俺自身が好きな感じなのよ。言葉で笑かされるのが好きだから、滝音のネタは、いつもワードセンスがよくておもろい。ネタを観ていても、リズム感のいい台詞がよく出てくるし、語感のいいワードを探っている感じがする。さながら「言葉の音楽家」。やっぱり〈ジュースごくごく倶楽部〉のキーボーディだけのことはある。

さすけ

キーボーディ?“スト”まで言えよ。確かにバンドで弾いてるけども。

平井

でも今回、二人で話すにあたってYouTubeで昔のネタとか観たけど、ツッコミの声が変わったな。

さすけ

昔は、あっきー(秋定遼太郎)に「100%の力でツッコんでくれ」と言われてたの。マンキンでやれって。でも、普段の会話で全力で話すことってあんまりないよなと思って。それで無意識のうちに、徐々にトーンを調整してきたんだと思う。

平井

よりリアルな会話に近づけようとして、今の感じになったのかもな。

さすけ

かもね。はじめて男性ブランコをネタで認識したんは、確かNSC生のとき。『キングオブコント2009』1回戦を観に行って、あの頃はアマチュアでも出られたから、いろんな人がネタやってて。そこで男ブラが出てきて、そこで急に「うわ、本物来てるやん」と思った。

平井

エントリー1年目のときや。あのときは2回戦で終わったんちゃうかな。

さすけ

個人的には『ぶどう』ってネタが衝撃やった。ブドウだけを題材にネタが作れるって、何?と思う。テレビや映画を観ていて、「これ設定おもろいな」ってネタを思いつくことはあるけど、ブドウだけ見ても普通なんも思いつかんもん。ものすごいことやと思う。賞レースで勝つ勝たんを抜きして、ブドウでネタを作れる男って、すごいよ。

平井

そんなん言ってくれて、嬉しいです。

さすけ

男性ブランコは、漫才もコントも言葉使いが秀逸。それでいうとおひらは「言葉の使い手」?

平井

それはみんなそうだろうよ(笑)。言葉はみんなが使うもんなんだから。

さすけ

言葉の使い手の、ひとり。

平井

ますますみんなと一緒や。

さすけ

でもこれだけ一緒に遊んでるのに、飲んだあと家には絶対あげてくれないのよな。あたしの家はウェルカムなのに、おひらは呼んでくれない。

平井

いや全然いいんだけど、1軒、2軒って飲んで、「家に行きたい」と言い出す時間が夜中の2時、3時なのよ。その時間はさすがにもう寝ようぜって。

さすけ

悲しいわ、あたし。

男性ブランコ・平井まさあきと滝音・さすけ

2人が選ぶ互いのベストネタ

選者:平井まさあき

『田舎暮らし』滝音
「おじいちゃんには元気なうちに会いに行かねば」という導入から、話がどんどん脱線していく漫才。

「滝音は言葉遊びの強度がめちゃくちゃ強い。この漫才も導入はおじいちゃんだけど、言葉と展開が強いから、おじいちゃんじゃなくても成立すると思う」

選者:さすけ

『ぶどう』男性ブランコ
ブドウ農家から送られたブドウを食べさせる男と、食べる男をめぐる異色のコント。

「漫才と違ってコントは設定が大事やから自分たちの色が出にくい。でもブドウというテーマで一本コントを作ったことがコンビの看板として成立するくらいすごい」

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