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“自分の言葉”で語る、俳優・橋本愛のリアリティ

俳優だけにとどまらず、歌手、モデル、文筆家などさまざまな顔を持ち、すべてにおいて唯一無二の個性を放つ橋本愛さん。その活動を見てみると、台詞(せりふ)や感情、歌を運びながら、さまざまな局面で自分の言葉を届けている。多岐にわたる活動の取材を通して、その本質に迫る。

photo: Keisuke Fukamizu, Kazuharu Igarashi (Chanel) / text: Keisuke Kagiwada

東京国際映画祭でフェスティバル・アンバサダーを務め、幻想的なドレスに身を包んだ橋本愛さん。開会式で「世界に向けて、日本映画のアピールポイントは?」という大きな質問に、丁寧すぎるほどに言葉を選びながら答えた。「“日本映画”と一口に言っても色々あるので一概には言えないのですが、小さく、私も含め、比較的閉鎖的なこの島国で、これだけ豊かで繊細な感性が育っていること。私は、映像は平面的なのに、その場所の空気の匂いや、質感がダイレクトに肌に伝わる、日本映画の湿度の高さが大好きです」

東京国際映画祭でフェスティバル・アンバサダーを務め、幻想的なドレスに身を包んだ橋本愛さん。
東京国際映画祭レッドカーペットで。今年のテーマは「飛躍」。「日本映画の飛躍のためには?」の問いに「まずこの広い世界を見渡してから、自分を見つめ直すこと」と答えた。

私たちの取材でも、真摯に思考したうえで紡がれる言葉から伝わってきたのは、お仕着せではない、地に足の着いたリアリティだ。例えばそれは、俳優の仕事についての、こんな言葉からも垣間見える。

「演技に関しては、準備にとても時間をかけます。“そこまでやらなくてもいいんじゃない?”というくらい準備してからじゃないと、役に臨めないんです。現場で力が出せないかもと不安だし、失敗して後悔するのも嫌なので。逆にそこまでやって失敗するなら許せるかなと。不器用なんです(笑)」

10代でデビューして以来、順調にキャリアを歩んできたかのように見えるが、本人は、数年前まで暗中模索の日々だったという。霧が晴れたきっかけは、4年ほど前の、アクティングコーチとの出会いだ。「自分のお芝居に対して、ずっと“何か違う”と思いながらも、それしかできないでいたんです。それをコーチが見抜いてくれて、私がずっと理想としていた表現に辿り着く方法を教えてくれました。それでやっと最近、自分に自信を持てるようになったんです。

俳優以外のことができるようになったのも、そのおかげ。例えば昔だったら音楽は“プロのレベルには到達できない”と避けたと思います。だけど、今はハードルを低く設定して、一つずつ越えることに意味を見出せるように。自分を過小評価も過信もせずに、目の前のこととフラットに向き合えるようにもなりました」

目標までのプロセスを決め
なぞる人生はつまらない

本人も語るように、最近の橋本さんは、俳優以外にも活躍の場を広げている。『週刊文春』の書評執筆の連載や、『ELLE DIGITAL』で、ブランドの名品を、モデルとして着用しつつ語る連載は、今年始まった。また一昨年、『THE FIRST TAKE』で歌う姿が大きな話題を呼んだが、現在は初めての試みとして、作詞に挑戦している。これらの活動で、大事な役割を果たしているのが、橋本さん自身の言葉にほかならない。自分の言葉を育むために重要なのが、読書などインプットの時間だ。

「インプットがないと、与えられた表現が成熟しないんです。17歳の時に映画の打ち上げでご一緒した樹木希林さんが、“役者はいろんな人生を知らなきゃいけないんだから、本を読まなきゃダメ”とおっしゃって。だから、本でも映画でも、純粋な娯楽ではなく、どこか自分自身の成長のために触れているという気持ちがあります。でも、受け取ったすべてを表現に還元できるので、ありがたい仕事です」

最後にこれからの目標を尋ねると、「ほとんどないですね」ときっぱり。「このお仕事って巡り合わせだと思うんです。目標を掲げたところで、違う方向に行ってしまうことも。それに、目標までの過程を決めて、それをなぞるように生きるのってたぶん面白くない。あ、今はお芝居で賞をいただくことが、目標と言えるかもしれません。自分がステージでスピーチするイメージが、仕事をするモチベーションにもなっているので。でも、叶わなくてもいいんです。叶ったらつまらなくなってしまう。夢は夢の時が、一番美しいと思うので」。その言葉もやはり、彼女なりのリアリティに根ざしていた。

橋本愛の次を生み出す仕事術

  1. どんな活動でも、最大限の準備をしてから臨む。
  2. 新しいことには、ハードルを低くして挑む。
  3. 自分の価値を、自分で決めない。
  4. 成長のための、インプットを怠らない。
  5. 将来の目標は掲げない。