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適度なジャズとワールド・ミュージックの融合。『Air Hadouk』ハドューク・トリオ。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.16

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む


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illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Air Hadouk』Hadouk Trio(2010年)

適度なジャズと
ワールド・ミュージックの融合。

日本でハドューク・トリオのことを知っている人は、とても少ないと思います。僕も紹介されるまでまったく知りませんでした。僕は以前、スカパー!の音声チャンネル『スターデジオ』でジャズの番組をやっていたことがあって、紹介してくれたのはその番組のディレクターでした。

ハドューク・トリオは、フランスのバンド。メンバーは、フランス人のディディエ・マレールブとロイ・エルリッヒ、そしてアメリカ人のスティーヴ・シーハンです。

ディディエ・マレールブはかつて、GONGというちょっと得体の知れないバンドでサックスを吹いていた人ですが、このバンドでは、ほとんどDoudouk(ドュドュク)というアルメニアの楽器だけを吹いています。ドュドュクというのは二重リードのついた木管楽器。二重リードというとオーボエを想像する人も多いと思いますが、ドュドュクはむしろ尺八のような、管を通る空気の気配が感じられる笛です。素材はアンズの木だそうですが、僕はこの笛の音が大好きなんです。

ロイ・エルリッヒは、Hajouj(ハジュージ)ともGembri(ゲムブリ)とも呼ばれる弦楽器を弾きます。Gnawa(グナワ)と呼ばれるモロッコの民族音楽で使われる楽器で弦は3本。素朴なアクースティック・ベイスのような音がします。やはりとてもアフリカ的な楽器です。ちなみに、バンド名の「Hadouk」は、エルリッヒが演奏するHajoujとマレールブが演奏するDoudoukという2つの楽器の名前から採った造語だそうです。

そしてスティーヴ・シーハンは名うてのパーカショニスト。いろいろな打楽器を演奏しますが、なかでもハング・ドラムという金属製の打楽器をよく演奏します。スティール・パンはお椀のように凹んでいる部分を叩きますが、ハング・ドラムは逆にドームのように膨らんだ部分を叩きます。ただ手で叩くので、スティール・パンよりも優しい音になります。

ワールド・ミュージックとジャズの要素を適度に持ち、極めて聴きやすい。ゆったりしていて、日本の夏によく効く気がします。

Hadouk Trio

CD-3:「Babbalanja」

タイトルの「Babbalanja」とは、ハーマン・メルヴィルの小説『マーディ』に出てくる円環論者の哲学者の名前。そう言われてみると、円環を巡っているサウンドのような気もしてくる。ドュドュクとゲムブリ、ハング・ドラムが自在に絡み合う気持ちのいいサウンドは、永遠に続いていくかのよう。