新しい技術や発明=「知財」で
未来の世界を妄想スケッチ
「αGEL(アルファゲル)という、触感が自由に変えられる新素材があります」と言われて、パッと何に使えるか思い浮かべられる人はいるだろうか。しかし「パンダを触ったことはありますか? αGELを使えば、あのパンダの感触を再現できるんです」と言われたら、興味を引かれる人も多いのではないだろうか。例えば、左上の「さわれる動物園」と名づけられたイラスト。これは新規事業を生み出すための知財データベース『知財図鑑』のコンテンツの一例だ。
そもそも“知財”とは、研究や開発などの知的活動によって生み出された財産的な価値を持つアイデアのこと。これらは模倣や盗用を防ぐため、企業にしろ大学にしろ、積極的に公開されていないケースも少なくない。『知財図鑑』はそこに着目し、「なぜ生まれたのか」「なにがすごいのか」「なにができるのか」といった解説を加えた“図鑑”形式で公開。さらに、その知財が応用されたシーンのイメージを自ら「妄想」し、イラストでビジュアライズして発信している。
『知財図鑑』編集長の荒井亮さんにこの形式にした理由を聞くと、「知財の話はどうしても専門的で複雑になりがちなのですが、なるべく端的に“ものすごく軽い”とか“瞬時にできる”と伝えることで、多くの人に知財のすごさを知ってもらいたくて、明快な“ビジュアル”と“わかりやすい文章”による、図鑑という形式を選びました。
もう一つのポイントは、この先、この技術や社会がもっと進歩すれば、こんな世界が実現するんじゃない?という我々の妄想や仮説をイラストで表現することで、いわば“未来予想図”のスケッチになっていることです。
知財の“財”という言葉の通り、知的財産は地球や社会にとって宝の山のようなものです。これを研究者だけでなく、僕らのような非研究者、つまり一般の人たちに広く知ってほしい、という思いもあります。これらの知財に可能性を感じて、企業の新規事業部門や行政の担当者が“あ、これ、やってみようかな”と思って、知財を社会に実装してもらうきっかけとなれば、と」。
冒頭の新素材「αGEL」をはじめ、『知財図鑑』は新しい、時に情報の波に埋もれてしまった知財をどのようにして見つけ出すのか。キュレーション機能を担い、社内外のクリエイターや理工系のエンジニアなどで構成される「知財ハンター」たちが注目しているのは「特許」だという。
「例えば『J−PlatPat』という特許情報のプラットフォームがあります。ここでは技術者や発明家はもちろん、世界的な企業がどんな特許を取得しているのかが一般に公開されているので、“これが次の新製品に搭載される技術かな”という見方もできます。詳しい設計図や計算式もありますが、概要を見ればそこまでの専門知識がなくても理解できるように書かれているので、知財に興味を持ったらぜひ一度見てみてほしいです」
まだそれほど世の中に流通していない研究成果や新素材、幅広い領域のテクノロジーをカバーしている『知財図鑑』を見れば、未来の生活を少しだけ垣間見ることができる。荒井さんは次のような学びを期待すると言う。
「知財は研究者の視点を通じて未来に思いを馳せる最良のツールだなと感じます。私たちのコンテンツに触れることで自分も何か研究したいと思ったり、調べたり、勉強に向かう気持ちになったりしてくれたらうれしいです」
耳慣れた言葉ではあるが、どこか遠い世界のことだと思っていた「特許」。こうして『知財図鑑』を通してみると、我々の仕事や普段の生活をアップデートするヒントや学びになることも多そうだ。