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加水分解知らずのナイキ中毒。70sランニングシューズコレクターの偏愛収集録

ある一つのカテゴリーに魅了され、収集し、そして“履く歓び”まで味わい尽くす“真の”スニーカーマニア。ナイキのランニングシューズに魅せられた猛者・兼近俊哉さんに自慢の逸品を披露してもらった。

初出:BRUTUS No.894『愛と欲のスニーカー。』(2019年6月1日発売)

photo: Koh Akazawa / text: Naoto Matsumura

マニアも唸る70sカラフルランニングシューズ

一見同じモデルの色違いが並んでいるようにしか見えないかもしれないが、実はこれらはナイキ・ヴィンテージの中でもかなりのレアものばかり。エアが搭載される前、つまり70年代のナイキのランニングシューズを集めて20年以上になる兼近俊哉さんは、マニアの間でも知らない人がいないほど。

〈NIKE〉ALOHA、〈NIKE〉CHELAN、〈NIKE〉ELITE、〈NIKE〉NEW BOSTON、〈NIKE〉OREGON WAFFLE、〈NIKE〉PROTOTYPE、〈NIKE〉ROAD RUNNER、〈NIKE〉SPECIAL NILON CORTEZ、
玄関先の両壁に設けた靴棚には、色鮮やかなナイキの稀少ランニングシューズがびっしりと並ぶ。上2段の7種は、すべてがハイクオリティな日本製スペシャルコルテッツ。

好きが高じてナイキ創業者フィル・ナイトの自伝本『SHOE DOG』が映像化した際にもシューズや撮影場所を提供したという。鑑賞を目的としたマニアが多いジャンルだが、古着好きがきっかけで収集を始めた兼近さんは、デッドストック以外ならどれだけ稀少なものでも履くのだという。

「初めてヴィンテージジーンズにオリジナルの『コルテッツ』を合わせたときは本当に感動しました。エアを搭載する80年代以降のものは加水分解してしまうので、古いナイキスニーカーを履くなら必然的に70年代のランニングシューズが多くなりますね。この時期の靴はランナーの足元を目立たせるために作られていたから、とにかくカラフル。コーディネートに華を添えるのにも最適なんです」

並べた靴を“ジェリービーンズのようだ”と愛でる兼近さんだが、集めるうえでの苦労も多い。

「昔はヤフオクも流行ってなかったので、安く手に入れられました。インターネットの普及でだいたいの相場が決まってしまい、お金で解決するライバルも急増し、今ではラッキーで手に入れることは皆無。だから、全国のナイキマニア有志が集まれる場所を作ったんです。ニッチだけど、同じ趣味の仲間と見せ合ったり情報交換したりしたいじゃないですか!」

古着好きゆえに復刻モノには手を出さず、あくまでオリジナル主義。稀少モデルの赤い「オレゴンワッフル」を履いて釣りに行った写真を仲間に見られたときは“もっと大事にして”とツッコまれたそう。ただし、決して兼近さんが大事にしていないわけではない。いつか息子にあげてもいいかなと大切にしているが、愛情が深すぎて、高校生になっているのにまだまだ譲る気になれないのだとか。

足元を引き立てる至極のカラースニーカー

NIKE/SPECIAL NILON CORTEZ(1976-1978)

〈NIKE〉SPECIAL NILON CORTEZ
7つ揃うのは奇跡。ナイキ界のドラゴンボール⁉

「コルテッツ」は当時、このオレゴンカラーを含むアメリカの7つの大学カラーが発売されていて、それらを「スペシャルナイロンコルテッツ」という。なかでも上質な日本製のものは世界中から高い評価を得ていて、兼近さんはすべてを所有する数少ない存在。

NIKE/PROTOTYPE(Early '70s)

〈NIKE〉PROTOTYPE
門外不出?テクノロジー開発用のテストシューズ。

モデル名もわからなかったけれど不思議な魅力を感じて熊本の古着屋で入手したという一足。探求を重ねていくなかで、古い雑誌からナイキ創業者の一人ビル・バウワーマンのページで同じものを発見!なんと自社のソールテクノロジーを試す際のテストシューズだったことが判明。

NIKE/OREGON WAFFLE(1973-1974)

〈NIKE〉OREGON WAFFLE
オレゴンカラーじゃないオレゴンワッフル。

通常オレゴン大学のカラーは緑×黄色なのに対し、最初期モデルは赤×白色で作られていて、しかもソールは緑色のワッフルソールを採用している。町田の古着屋で発見し、当時はなぜこのレアカラーが存在するかわからなかったが珍しさで購入。いまだにマニアの間でも珍品扱い。

NIKE/CHELAN(1974)

〈NIKE〉CHELAN
ライバルブランドの名作とウリ二つ…⁉

まるで、白レザーに緑ラインでお馴染み、アディダス「カントリー」をモチーフにしたかのようなデザイン。幾度かモデルチェンジされているが、初期モデルは商標マークがなく特に稀少とか。兼近さんもほかの実物を見たことがないらしく、サイズも程度も完璧なデッドストックだという。

NIKE/ELITE

〈NIKE〉ELITE
選手別注モデル、3色使用のレアカラー。

初期作は筆記体ロゴのタグが付き、当時のモデル名は「スペシャルマラソン」。いち早くEVAソールを採用した機能シューズで、定番カラーは青×蛍光イエローだったが、ランナーの選手別注で作られた特別カラーはめったに出てこない珍品。しかも3色使いともなると特別感は倍増。

NIKE/NEW BOSTON(1977)

〈NIKE〉NEW BOSTON
オレンジのミッドソールこそオリジンの証し。

前モデルの「ボストン」をヒールカウンターの形状にアップデートしたモデル。生産がすべて日本ゴム製で、アウトソール以外は劣化しにくいから比較的デイリーユースしやすいのも兼近さんがお気に入りに選ぶ理由の一つ。オレンジのミッドソールを配備したファーストモデルで激レア。

NIKE/ROAD RUNNER(1975)

〈NIKE〉ROAD RUNNER
ヘリンボーンソールのファーストモデル。

2層のミッドソールと生ゴムソールの構造により、70年代の人気誌『ランナーズワールド』でスニーカーランキングの受賞歴もある名作。初期作のこちらはヘリンボーンパターンのソールを採用。なお次モデルからは丸いパターンになり、台湾製には六角形のパターンが使われている。

NIKE/ALOHA(1983)

〈NIKE〉ALOHA
ハワイ×ランニングシューズの最高傑作。

1983年にホノルルマラソンを記念してハワイでのみ発売されたこのモデルは、アロハ柄の秀逸なデザインゆえに70年代好きの兼近さんも別扱い。同デザインで淡いピンクカラーの通称グアムと呼ばれるレディースバージョンも所有し、気分に合わせて履き替えているというからすごい。