バイイングは、
“想定外”がないとつまらない。
神奈川県厚木市には、ファッション業界人が常に動向を気にする名店〈マスマティクス〉がある。皆が口を揃えて発するのは、“店主の目利きがスゴい”の一言だ。
「売れ筋を並べるよりも、難解で着づらく、少々高い服を揃えて売ってる方が格好いいでしょ?」
そう答える神宮一茂さんは22年前から一貫して自分の目で服を見極めることにこだわり続けている。「膨大な量の服が並ぶ展示会でも、パンツも必ず一本ずつ試着します。シルエットやサイズ感は慣れると型を見ればわかるようになるのですが、細部まで見落としたくないんですよね。買い付けは自分の感覚に素直に従うようにしています。どれだけ余白を作り、遊びのある要素を差し込めるかが鍵なんです。ずっと続けてこられたのは、そんな提案に付き合ってくださるお客様や、理解してくれるスタッフがいるからでしょうね」
では、神宮さんの好きな服は?
「自分の想像を超えてくる服かな。好きなジャンルはありますが、難解なデザインの服であるほど夢中になります。展示会ってオーダーしてから半年経ってやっと入荷するじゃないですか。その間に少し自分も成長して、〈マスマティクス〉としてどれだけ表現できるかが一番楽しいのかもしれません」