〈フェートン〉は、坂矢悠詞人という人格そのものである
〈フェートン〉を訪れる客の多くは、とてもゆっくりとここでの滞在を楽しむ。フェートンという空間、そこで流れる時間、そしてオーナー・坂矢悠詞人(さかや・よしひと)という人物そのものを味わい尽くすように。
初めて訪れる人は驚くかもしれないが、〈フェートン〉は「何も干渉せず、真っすぐに空と海が見える」少し辺鄙な場所にある。
この場所を選んだ理由は、坂矢さんの“瞬目惚れ”。彼はたびたび、この“瞬目惚れ”という表現をするが、一目惚れを上回る速さと直感で、「いい!」と感じた瞬間にはもう決断を下しているのだそう。
そして彼を取り巻く物事、店に並ぶモノの多くが、この“瞬目惚れ”によって選択されている。
イザベラ・ステファネッリのコートも、トゥーグッドのフォトグラファージャケットも、グラのランプも、イサム・ノグチ、ジャン・プルーヴェ、ピエール・ジャンヌレの家具も、壺も、香水も。
あえてその共通項を挙げるなら「時間と手間をかけて作られたもの」。そして一度惚れた感覚を信じて突き進み、全身で沼にハマるように徹底的に掘り下げる。自分の身体と五感を使い、時間と手間をかけ、その良さを実感して初めて、彼の商いが始まる。
「僕らが売る洋服は、デザイナーが魂を込めて作ったものばかり。例えばイザベラ・ステファネッリは、デザイン、パターン、縫製、染色もすべてイザベラさんが一人で手作業で進めているんです。それはもう、ロマンです」
だから良いと思ったらフルラインで仕入れて、必ず定価で売り切る。
「デザイナーに失礼なので、セールは一切しません」
一つのものを納得のいくまで追求し続けた結果、フェートン創業以来、11年で4軒の洋服屋とフレグランスバー、紅茶&グルテンフリースイーツと、専門店を着々と増やしている。坂矢さんの次なる「沼」は!?フェートンの深化は、まだまだ計り知れない。