【2月】ブロンクスの歌姫、サマラ・ジョイが、グラミー賞2冠に輝く
正月気分も抜けた頃に届いたビッグニュース。前の年にはテレビで授賞式を観ていた少女が、その華やかなグラミー賞の舞台の輝く主役になったのである。少女の名はサマラ・ジョイ。
彼女は、最優秀新人賞とメジャーデビュー・アルバムの『Linger Awhile』でベスト・ジャズボーカル・アルバム賞を受賞。特に主要4部門の1つに数えられる最優秀新人賞は全ジャンルの新人の中から1人だけに贈られる賞で、人気ロックバンドのマネスキンや実力派R&Bシンガー、マニー・ロングら有力候補を抑えての受賞だった。
ジャズミュージシャンの受賞は2011年のエスペランサ・スポルディング以来、12年ぶりのこと。授賞式での初々しい受賞スピーチも話題になり、サマラ・ジョイの名は一夜にして全米に知れわたることとなったのである。
【2月】グラミー賞が見識を示した、テリ・リン・キャリントンへの授賞
サマラ・ジョイとともに話題になったのが、テリ・リン・キャリントン『New Standards Vol.1』への最優秀ジャズインストゥルメンタル・アルバム賞授賞である。
バークリー音大で教授も務めるキャリントンはこの前年、女性作曲家の作品だけを101曲収めた同名の譜面集を上梓。その収録曲から11曲を抜粋したのがこのコンセプトアルバムなのだ。彼女の一連の、ジェンダー格差解消への貢献が高く評価されたと言えるだろう。もちろんジュリアン・ラージ、リンダ・メイ・ハン・オーらが参加した演奏も秀逸。
【4月】ドミ&JD・ベック、コーチェラを虜(とりこ)に
超絶技巧と「カワイイ」という価値観でジャズ界を騒がせたZ世代を象徴するジャズオタク・デュオ、ドミ&JD・ベックが、早くもアメリカ最大の音楽フェス、コーチェラ・ヴァレー・ミュージック&アート・フェスティバルに登場。アンダーソン・パークと共演したパフォーマンスは、コーチェラに集った観客のハートを鷲づかみにしたのである。
【5月】ジョン・バティステがNewJeansとコカ・コーラとのコラボ曲で共演
飛ぶ鳥を落とす勢いが微塵の陰りも見せないジョン・バティステと、シカゴのロラパルーザ・フェスティバルでも躍動したK−POPの超新星NewJeansが、コカ・コーラとのコラボ曲「Be Who You Are」で共演を果たした。
レゲエのリズムにノって歌い踊る彼らは、ジャンルや世代、地域性などあらゆる違いを超えて音楽で共鳴し合う、理想的な関係に見える。彼らのハーピーなバイブでスカッと爽やかに。
【6月】グラストンベリーにジャズミュージシャン続々登場
50年以上の歴史と伝統を誇るイギリス最大の音楽フェスティバル、グラストンベリーはロック色の強いフェスティバルだが、こちらでも近年、ジャズミュージシャンの台頭が目覚ましい。レジェンド、エルトン・ジョンのヘッドライナー登場が話題になった2023年も、サンダーキャット、エズラ・コレクティヴ、ルイス・コールらジャズ界の精鋭が観客を大いに盛り上げた。
【9月】エズラ・コレクティヴ、『Where I'm Meant to Be』でジャズ界初のマーキュリー賞受賞
マーキュリー賞はその年、UKもしくはアイルランドで最も優れたアルバムに贈られる賞。12候補から1作品が選ばれるのみでほかはなしときっぱりしていて、文学のブッカー賞、アートのターナー賞と並び称されている。エズラ・コレクティヴの受賞はジャズミュージシャンとして初の快挙で、常連のアークティック・モンキーズや前評判の高かったジェシー・ウェアを抑えての受賞だった。
【9月】BTSのV、ジャズボーカル・アルバム『Layover』をドロップ
世界的な人気を誇るK−POPグループBTSにおいて、憂いを含んだ美声とダンスセンスで人気ナンバーワンといわれているV。そんなVの初のソロアルバムはリリース前から注目の的だったが、蓋を開けてみれば、なんとジャズ。アメリカ発ヨーロッパ経由HYBE行きの流れを感じさせるスタイリッシュなジャズボーカル・アルバムは韓国での発売初日に167万枚を売り上げる記録的な大ヒットとなった。
一方、女性アイドルグループのトップ中のトップBLACKPINKのJennieも、ソロヒット曲「You & Me」やシーアの「Snowman」のジャズバージョンを独特のウィスパーボイスで披露している。現代K−POPの2大スーパーグループのメインアーティスト2人がジャズへアプローチしたことは、2023年の出来事として記憶されるべきだろう。
【11月】日本ではジャズミュージシャンのドキュメンタリーが目白押し
ビル・エヴァンスやウェイン・ショーターら巨匠のドキュメンタリー映画の公開が相次いだ。極め付きはジャンルを超えた才人を追った『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』と『ジョン・バティステ アメリカン・シンフォニー』だ。
【11月】ヒップホップ・レジェンドの新作はラップ抜きのアンビエントなジャズ⁉
アンドレ3000といえば、2000年代初期にラップデュオOutKastでグラミー賞6冠に輝いたヒップホップ・レジェンド。そんな彼が17年ぶりにリリースしたソロアルバム『New Blue Sun』は、しかしなんとラップ抜き。「今ラップすることはリアルじゃない」と語る彼にとってはアンビエントジャズがリアルだったのだ。
【11月】マルコムXの人生を描いたジャズオペラが、聖地NYメトロポリタン劇場で初上演
最近まで日本でもライブビューイング形式で上映されていたが、マルコムXの人生を描いたジャズオペラ『X: The Life and Times of Malcolm X』がオペラの聖地・NYメトロポリタン歌劇場で初上演された。これはジャズ史の新たな一ページとなる出来事だと言っても過言ではない。