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2023年のジャズ界を彩った10の出来事。NewJeans、BTS、ジョン・バティステetc.

2023年はジャズの存在感がジャンルを超えて広がっていることを実感させられた一年だった。それもロック、ヒップホップ、K−POP、オペラなどほぼ全方位に。やっぱりジャズから目が離せない。


本記事も掲載されている、BRUTUS「JAZZ is POP!!」は、2月15日発売です。

text&edit: Kaz Yuzawa

【2月】ブロンクスの歌姫、サマラ・ジョイが、グラミー賞2冠に輝く

サマラ・ジョイ
サマラ・ジョイ
©Getty Images

正月気分も抜けた頃に届いたビッグニュース。前の年にはテレビで授賞式を観ていた少女が、その華やかなグラミー賞の舞台の輝く主役になったのである。少女の名はサマラ・ジョイ。

彼女は、最優秀新人賞とメジャーデビュー・アルバムの『Linger Awhile』でベスト・ジャズボーカル・アルバム賞を受賞。特に主要4部門の1つに数えられる最優秀新人賞は全ジャンルの新人の中から1人だけに贈られる賞で、人気ロックバンドのマネスキンや実力派R&Bシンガー、マニー・ロングら有力候補を抑えての受賞だった。

ジャズミュージシャンの受賞は2011年のエスペランサ・スポルディング以来、12年ぶりのこと。授賞式での初々しい受賞スピーチも話題になり、サマラ・ジョイの名は一夜にして全米に知れわたることとなったのである。

【2月】グラミー賞が見識を示した、テリ・リン・キャリントンへの授賞

サマラ・ジョイとともに話題になったのが、テリ・リン・キャリントン『New Standards Vol.1』への最優秀ジャズインストゥルメンタル・アルバム賞授賞である。

バークリー音大で教授も務めるキャリントンはこの前年、女性作曲家の作品だけを101曲収めた同名の譜面集を上梓。その収録曲から11曲を抜粋したのがこのコンセプトアルバムなのだ。彼女の一連の、ジェンダー格差解消への貢献が高く評価されたと言えるだろう。もちろんジュリアン・ラージ、リンダ・メイ・ハン・オーらが参加した演奏も秀逸。

【4月】ドミ&JD・ベック、コーチェラを虜(とりこ)に

超絶技巧と「カワイイ」という価値観でジャズ界を騒がせたZ世代を象徴するジャズオタク・デュオ、ドミ&JD・ベックが、早くもアメリカ最大の音楽フェス、コーチェラ・ヴァレー・ミュージック&アート・フェスティバルに登場。アンダーソン・パークと共演したパフォーマンスは、コーチェラに集った観客のハートを鷲づかみにしたのである。

©Getty Images

【5月】ジョン・バティステがNewJeansとコカ・コーラとのコラボ曲で共演

飛ぶ鳥を落とす勢いが微塵の陰りも見せないジョン・バティステと、シカゴのロラパルーザ・フェスティバルでも躍動したK−POPの超新星NewJeansが、コカ・コーラとのコラボ曲「Be Who You Are」で共演を果たした。

レゲエのリズムにノって歌い踊る彼らは、ジャンルや世代、地域性などあらゆる違いを超えて音楽で共鳴し合う、理想的な関係に見える。彼らのハーピーなバイブでスカッと爽やかに。

【6月】グラストンベリーにジャズミュージシャン続々登場

50年以上の歴史と伝統を誇るイギリス最大の音楽フェスティバル、グラストンベリーはロック色の強いフェスティバルだが、こちらでも近年、ジャズミュージシャンの台頭が目覚ましい。レジェンド、エルトン・ジョンのヘッドライナー登場が話題になった2023年も、サンダーキャット、エズラ・コレクティヴ、ルイス・コールらジャズ界の精鋭が観客を大いに盛り上げた。

【9月】エズラ・コレクティヴ、『Where I'm Meant to Be』でジャズ界初のマーキュリー賞受賞

マーキュリー賞はその年、UKもしくはアイルランドで最も優れたアルバムに贈られる賞。12候補から1作品が選ばれるのみでほかはなしときっぱりしていて、文学のブッカー賞、アートのターナー賞と並び称されている。エズラ・コレクティヴの受賞はジャズミュージシャンとして初の快挙で、常連のアークティック・モンキーズや前評判の高かったジェシー・ウェアを抑えての受賞だった。

【9月】BTSのV、ジャズボーカル・アルバム『Layover』をドロップ

世界的な人気を誇るK−POPグループBTSにおいて、憂いを含んだ美声とダンスセンスで人気ナンバーワンといわれているV。そんなVの初のソロアルバムはリリース前から注目の的だったが、蓋を開けてみれば、なんとジャズ。アメリカ発ヨーロッパ経由HYBE行きの流れを感じさせるスタイリッシュなジャズボーカル・アルバムは韓国での発売初日に167万枚を売り上げる記録的な大ヒットとなった。

一方、女性アイドルグループのトップ中のトップBLACKPINKのJennieも、ソロヒット曲「You & Me」やシーアの「Snowman」のジャズバージョンを独特のウィスパーボイスで披露している。現代K−POPの2大スーパーグループのメインアーティスト2人がジャズへアプローチしたことは、2023年の出来事として記憶されるべきだろう。

BTSのVが握手する様子
©Getty Images

【11月】日本ではジャズミュージシャンのドキュメンタリーが目白押し

ビル・エヴァンスやウェイン・ショーターら巨匠のドキュメンタリー映画の公開が相次いだ。極め付きはジャンルを超えた才人を追った『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』と『ジョン・バティステ アメリカン・シンフォニー』だ。

『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』
photo:courtesy of Poplife Production

【11月】ヒップホップ・レジェンドの新作はラップ抜きのアンビエントなジャズ⁉

アンドレ3000といえば、2000年代初期にラップデュオOutKastでグラミー賞6冠に輝いたヒップホップ・レジェンド。そんな彼が17年ぶりにリリースしたソロアルバム『New Blue Sun』は、しかしなんとラップ抜き。「今ラップすることはリアルじゃない」と語る彼にとってはアンビエントジャズがリアルだったのだ。

【11月】マルコムXの人生を描いたジャズオペラが、聖地NYメトロポリタン劇場で初上演

最近まで日本でもライブビューイング形式で上映されていたが、マルコムXの人生を描いたジャズオペラ『X: The Life and Times of Malcolm X』がオペラの聖地・NYメトロポリタン歌劇場で初上演された。これはジャズ史の新たな一ページとなる出来事だと言っても過言ではない。