思えば沖縄ほどアイスクリームと相性のいい土地はない。南国のフルーツが豊かに実り、上質の黒糖と塩を生む。島独特のハーブやスパイスも多様で素材には事欠かない。
しかも一年の半分は夏というアイスクリーム性気候。そんな亜熱帯の島への旅から見えてきたのは、暮らしとアイスのハッピーな関係だ。
沖縄アイスシーンの今をレペゼン!〈CAFUNÉ〉
旅の最初は普天間の注目店〈CAFUNÉ〉へ。古い商店街の角地に佇み、地元住民と観光客が次々立ち寄る。店のベンチでアイス片手に談笑する光景に幸福なオーラが溢れる。「アイスって、あってもなくてもいいものだけど、あればハッピーになれる。そこがいいですよね」と店主の平良葵(たいらあおい)さん。
米・ポートランドで名店〈SALT&STRAW〉を訪れ、「こういう店が沖縄にもあるといいな」と思った。店名は「愛する人の髪に指をそっと通す仕草」を指すブラジルの言葉。また沖縄口(ウチナーグチ)の「果報(カフー)」(幸せ)の意も重ねている。
地元うるま市の魅力をジェラートに凝縮〈うるまジェラート〉
金武(きん)湾を眼前に望む〈うるまジェラート〉は、2010年創業で沖縄クラフトアイスの草分けの一つ。有機農業に関わっていた代表の大村幸江(さちえ)さんは、農作物の活用方法を模索中、〈伊賀の里モクモク手づくりファーム〉にジェラートを勧められた。
「これなら農家や観光の役に立てる!と即決しました」。ミネラル海塩《ぬちまーす》や黄金芋(くがにいも)などうるまの食材で作る無添加ジェラートは、後口がいいと生産者にも大好評。
特殊製法で作る《生ジェラート》、〈H&Bジェラ沖縄〉
野口文彦・洋子さん夫妻が営む〈H&Bジェラ沖縄〉の開業も同じ時期。国内海外からの観光客で賑わう〈那覇市第一牧志公設市場〉にあり、20種以上のジェラートが並ぶ。
「沖縄のフルーツのおいしさを伝えたいと考えるうちにどんどん増えちゃった」と笑う。代名詞は生のフルーツを混ぜ合わせた《生ジェラート》。必ず注文を受けてから特製のやちむんのバットで調理する。爽やかな果肉の食感はほかにない味わい。
現地でこそ味わいたい、あの沖縄のソウルアイス
沖縄のアイスシーンを巡るうえで外せないのは、やはり〈ブルーシール〉だ。1948年、在沖米軍用の乳製品を作るため米軍基地内で設立。63年の牧港(まきみなと)本店の開店以降、パーラー等でも販売され、沖縄県民に広まった。まさに「アメリカ生まれ、沖縄育ち」のアイスだ。
大人から子供まで楽しめるアイスの楽園〈ブルーシール〉
沖縄の空気の中で食べると、ひときわおいしく感じられるのはなぜだろう?ここ北谷(ちゃたん)店は場所柄、観光客から米軍家族、沖縄の中高生らが集う。店内の巨大アイスのオブジェの前で子供の写真を撮る家族。その楽しげな姿に周りも自ずと笑顔になる。
沖縄アイスクリームのマエストロ〈UD ICE CREAM〉
「アイスを嫌いな人はいないし、まず喜んでくれるから作り甲斐がある」と話すのは〈UD ICE CREAM〉の屋嘉(やか)一彦さん。大学で発酵学を学んだ後、沖縄県内のアイスクリームメーカーで19年間アイスを作り続けてきたアイス一筋の職人だ。
2010年の退職後は県内外の数々のアイスブランドやショップの立ち上げ、商品開発に携わる。一方自身の豊見城(とみぐすく)の店では、厳選した素材でじっくり手間暇かけ、自分が好きなものだけを作っているとのこと。北部を旅したら食べてみたいのが、〈沖縄ビックアイス〉のアイスクリン。
週末の道路沿いにパラソルを出し、アイスを売る女子学生の姿は、沖縄の長い夏の風物詩だった。
絶景カフェで懐かしの爽やかアイスを!〈アイスクリンカフェアーク〉
そんな道端販売は時代の流れで今年から中止になったが、懐かしの味は〈アイスクリンカフェアーク〉で楽しめる。創業者の故・上間光秀(うえまみつひで)さんがノアの箱舟(はこぶね)をイメージして建てた4階建てのカフェだ。
父の後を継ぎ代表を務める上間聖風(いぶき)さんは「この箱舟(アーク)で父が遺した沖縄アイス文化を受け継いでいきたい」と語る。
豊穣なる八重山の島々のアイスクリーム風景
沖縄本島だけでなく、離島のアイスシーンも見逃せない。今回は八重山諸島の話題の店をホッピング。
本格派ジェラートで島から世界へ!〈寿五八(じゅうごや)〉
まずは開店1年ながら、石垣島の美食家とバカンス外国人を魅了するジェラテリア〈寿五八〉(じゅうごや)。店主は生粋の島人(シマンチュ)の上地洋希(うえちひろき)さん。屋号は祖父が営んでいた沖縄そば屋に、和テイストの店構えは自身が以前、歌舞伎の着付け師だったことにちなむ。
200種以上開発した中から、島の食材系、伝統的イタリア系、和風系を選び、毎日日替わりで10種並べる。「アイスのレシピは本当に複雑で繊細で数学的。そこから石垣の風土に合う解答を探しています」
牛との共存が生み出すミルクアイス〈石垣島ミルククラウン〉
小山内(おさない)まさよさんの〈石垣島ミルククラウン〉は、石垣島最北端・平久保崎(ひらくぼざき)への道沿いにあるキッチンカー。自身でジャージー牛を育て、クラフトミルクやヨーグルトを作る。「おいしいミルクを出すには、牛たちが幸せに暮らすことが大事」と小山内さん。
このミルクの味そのままを楽しめるように作るミルクアイスの豊潤さ。島では幸せを運ぶ神を「弥勒(ミルク)様」と呼ぶのを思い出した。
海辺の茶屋で味わう豊かなる島の恵み〈由布島茶屋〉
西表島(いりおもてじま)から水牛車に揺られて渡る由布島(ゆぶじま)。マンタの浜にある〈由布島茶屋〉は、西表島のアイスブランド〈マーハルジェラート〉の直営店だ。「〝マーハル〞はここの言葉で〝おいしい〞。新鮮でおいしい、西表島の旬の素材にこだわっています」と代表の林良子(りょうこ)さん。
実はアイスは西表島から朝一番の水牛車に載せて運ばれる。水牛に引かれ、海を渡ってくるアイスって、なんだか心躍る。一昔前、会話中に同じ言葉を発したら、「ハッピーアイスクリーム!」と言い合う謎の言葉遊びが流行った。沖縄アイスの風景は、その発祥地はここかも?と思わせてくれる。