オオヤミノル
最初に『BRUTUS』編集部から「1000号の記念にオリジナルのコーヒー豆を作ってほしい」と依頼を受けたんだけど、何かを記念してコーヒーを作るのは散々やってきたから、今までとは違う何かをやりたいと思ったんだよね。そこで『BRUTUS』に携わっていた編集者とともにバックナンバーを振り返るZINEを作ろうと思い立って、堀部ちゃんと仲村くんに相談したんだ。コーヒーを作るだけじゃ満足できなかったってことだね。
堀部篤史
「豆だけじゃなくて、ZINEも」とサービス精神が働くのは“京都人らしさ”だと思うな。依頼に対して、頼まれたこと以上のものを返したくなるというか。
オオヤ
堀部ちゃんは、今回『オオヤミノRUTUS』を作ろうと誘われて、ぶっちゃけどう思った?
堀部
“誘われた”というより、巻き込まれているだけだよ(笑)。“オオヤさんのやりたいこと”がイデアで、僕は手を動かすのみです。
オオヤ
俺にはどうやって本ができるのか、さっぱりわからないからね。今回は知り合いの元『BRUTUS』編集者の永田玄さんや岡本仁さんに、『BRUTUS』を振り返る原稿を寄稿してもらうことにした。表紙は漫画家の堀道広さんに頼んで、バックナンバーをサンプリングして描いてもらおうと。
仲村健太郎
オオヤさんは編集者やイラストレーターのような裏方の仕事に興味がありますよね。普段から雑誌のクレジットページも、しっかりチェックされている印象です。
オオヤ
それはあるね。永田さんや岡本さんは、いつもスリリングな過去と、熱い正義感について話してくれるから面白いんだよ。永田さんが振り返ってくれた150号「楽しい広告主義」は、雑誌の全ページが広告のみで構成されている。写真家の長濱治や荒木経惟が広告を作り、編集部や代理店は制作に一切口出ししないという革命的な特集だったんだけど、制作費をつぎ込みすぎて大赤字だったって。痺(しび)れるよね。
そんな裏話を聞くたびに、編集者たちは雑誌が持つイメージ以上に強い理念や思いを持っているんだなと感じるんだよ。そしてどれだけ費用がかかっても許容してくれる器の大きさが、『BRUTUS』にはある。特に1980年代頃は、京都の日常で味わえないスリルや痛快さを、雑誌の誌面から味わうことができた。
堀部
出来上がった『BRUTUS』そのものより、作られるまでの構造に興味が湧くという“目線の遠さ”は、オオヤさんの面白いところ。
仲村
憧れていたり、批判するのとはちょっと違いますよね。編集部のある銀座から遠く離れた京都という地で、オオヤさんが『BRUTUS』を面白がっていた結果生まれたのが『オオヤミノRUTUS』だと思う。
オオヤ
そうそう、俺らが長年感じていた『BRUTUS』への高揚感をZINEに投影できるなんてラッキーだよね。今の若い世代にその興奮を体感してみてほしい。コーヒー豆を焼く時も、一冊のZINEを作るくらいの情報量と熱量が必要。「過去を振り返るZINEだからヴィンテージの熟成豆を混ぜようかな」「海外撮影もしていたから海っぽい味わいはどうかな」などあれこれ考えています。
仲村
『BRUTUS』を投影したZINEですが、出来上がって売られた時に、ちゃんと“本”として見られるクオリティにしたいです。そのために、紙の質や誌面のデザインにはこだわりたい。
堀部
僕は特にしたいことがないので、ちゃっかり参加するだけで。
オオヤ
そんなふうに言って、どうせ良いものを作ってくれるんでしょ。
オオヤミノRUTUSとBRUTUS COFFEE BAG
ショップ名:オオヤコーヒ出版局
価格:¥2,200
オオヤミノルさんが指揮を執り、元『BRUTUS』編集者・永田玄さんとあの頃を振り返る。1987年2月1日号「楽しい広告主義」を回顧したZINE『オオヤミノRUTUS』とコーヒーバッグのセット。24年1月11日に予約販売を開始し、2月から発送予定。編集者の岡本仁さんが寄稿する第2号も発売予定。