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映画『少女は卒業しない』。主演・河合優実の眼差しの先にある、演技とは

河合優実という俳優をご存じだろうか。世の中がコロナ禍に入る直前からキャリアをスタートさせたにもかかわらず、ブルーリボン賞など数々の新人賞や映画賞を受賞している逸材だ。特に孤独な少女を演じる時の眼差しや佇まいが観るものを捉えて離さない。また、その演技の振り幅にも脱帽だ。「その都度、その役の自分を楽しんでいる」という河合が、今演じてみたいのは『RRR』のあの2人だと笑いながら言う。大人計画の舞台もこなす彼女なら、いつかそんな日も本当に来るのではないか。

photo: Yuki Kumagai / styling: Tatsuya Yoshida / hair&make: Rumi Hirose / text: Mikado Koyanagi

今、最も日本映画に欠かせない俳優・河合優実が語る演技論

昨年公開の日本映画で高い評価を受けた『愛なのに』『PLAN 7‌5』『冬薔薇(ふゆそうび)』『ある男』。実は、これらの作品すべてに出演している俳優がいる。それが河合優実だ。

また、河合はただ出演しているだけでなく、『愛なのに』の女子高生役で、栄えあるヨコハマ映画祭の助演女優賞を射止めるほどその演技力にも定評があり、デビューして間もないながら、昨年の出演映画が前述の作品含め8本にも及ぶほど、現在の日本映画に欠かせない存在となりつつある。

確かに、河合のここ数年の活躍には目覚ましいものがあるが、特に孤独な少女の演技でキャリアを積み上げてきた感がある。

それも、『佐々木、イン、マイマイン』や『由宇子の天秤』のような陰を抱えたキャラクターから、『サマーフィルムにのって』や『愛なのに』のような比較的ポジティブで明るめのキャラクターまで、新人ながら幅広い役柄を演じ分けている。

河合に、そうした演じ分けについて尋ねてみると、「振り返ると、役柄同士が極端に離れた役をやっているなと思いますが、その時々に、割と自分の中のグラデーションで、近い部分を見つけてそれを膨らますようなやり方をしていますね」と答える。

俳優・河合優実
ワンピース(コム デ ギャルソン・コム デ ギャルソン/コム デ ギャルソン TEL:03-3486-7611)、その他スタイリスト私物

そこにあるのはいつも、“河合優実”という確固たる存在

かといって、役に流されるわけでもなく、そこにはいつも、河合優実という確固たる存在があった。だからこそ、その出演作を観てくると、例えば、3月10日に公開となる『ひとりぼっちじゃない』において演じる蓉子という役柄は、絵を描くという設定もあってか、河合がキャリア初期に出た日本テレビのドラマ『ネメシス』の美術部の女子高生役の成長した姿のようにも見えてくる。まるで、実人生とは異なる映画内人生を歩んでいるかのように。

今、河合はそのまま大学に行っていたら、ちょうど卒業するくらいの年齢になっているが、その役柄の創造の源泉は多感だった高校時代にあるようだ。

「すごく目まぐるしい時期ですよね。たった3年間ですけど、いろんなことが自分の中で動いたり、感じたり、経験したりということが詰まった時期でしたね。いろんな脚本を読んでいて、その役柄がその頃の私みたいだなと思うことや、まだ先の年齢の大人の役でも、あの時の私みたいと思うことがあって、それを引き出しにしているところがあるかもしれません」

そして、いよいよその河合優実の初主演作『少女は卒業しない』が公開された。タイトル通り、また女子高生役だ。

朝井リョウの連作短編小説を一本の長編映画に再構築したもので、4人の女子高生たちの卒業式までの2日間を描く。その物語上の中心的な役割を担う、料理部の部長のまなみ役を河合が演じている。

彼女たちは、それぞれあっさりとは卒業できないある思いや事情を抱えているのだが、まなみは前の年の夏にある大きな辛い出来事を経験していて、映画では直接描かれないそこからの時間の蓄積を感じさせながら演じなければならない難しい役どころだ。それを河合は実に見事に演じている。

「その2日に至るまでに過ごしてきた時間を想像し、役に詰めるのが難しかったですね。(中川駿)監督と話した部分もありましたけど、(相手役の窪塚)愛流(あいる)君、ご本人からもらった印象や、学校の調理室とか、現場に入ってから膨らんでくるイメージとかに助けられて。そこはキーポイントですね。

瞬発的にその場で出るものが大事というパターンもあると思うんですけど、あれは、積み重ねて積み重ねていかないとできなかったなあと、今思いますね」

そして、その思いは、まなみが卒業式で答辞を読むシーンで一つのクライマックスを迎える。それを、河合は自ら一発撮りでと希望を出して撮影に臨んだという。

「どんなシーンでもそうだと思うんですけど、良くも悪くも一番最初に演じた時が一番新鮮で。それが相手役とのやりとりだったら、どんどん良くなってもくるけど、何回も繰り返していたらまたダレてもくる、というヤマがあると思うんですね。あのシーンは、一人でずっと(答辞を)読むというものだったので、新鮮さという意味では、絶対1発目が一番良いだろうと思って。それはきっと再現できないなと思ってお願いしました」

そして4人は晴れて卒業式を迎えるのだが、この映画のタイトルは『少女は卒業しない』とある。極めて逆説的なタイトルとも言えるが、河合にそれについてどう思うかと問うと、「確かに悩みました。それで原作も読み返しましたし。答辞のトーンにしても、卒業できないまま心がとどまっている印象があった方がいいのか、あの出来事をきちんと閉じて卒業するまなみになっていた方がいいのか、監督とも話はしました。卒業しないというタイトルだけど、結局みんなが卒業することを選べたことが際立てばという解釈で臨みましたね」。

今も、新たな作品に出演するたびに、毎回自分が更新されていくような感覚を覚えるという河合。「役もそうですし、作品の中での立場とか、どんどん新しい環境になっていくという感じがあって、そのたびに新しい気づきがあるんです」

それは、強引に今回の映画のタイトルになぞらえるなら、たとえ何かをやり遂げても、そこで満足せず、絶えず更新される波の中にワクワクしながら身を任せる、つまり「卒業しない」ということでもあるだろう。そう、河合優実は決して「卒業しない」俳優なのだ。

映画『少女は卒業しない』予告編