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よりナチュラルで自由に。新世代の造り手〈ユンジュダン〉が牽引するマッコリの現在地

日本でも手軽に飲めるマッコリ。本国では、クラフトビールやナチュラルワインのようにより自然な製法を選ぶ小規模な造り手と、それを届ける酒場が生まれているようです。新しい伝統酒の最前線を覗いてみましょう。

photo: Tetsuya Ito / text: Koji Okano / coordination: Hyojeong Choi

小規模だからこそ多様で多彩。マッコリはナチュラルで自由に

今、小規模な造り手によるナチュラルなマッコリが面白い!そう聞いて訪れたのは、世界文化遺産・宗廟近くの建物2階の一室。奥の部屋に冷蔵室を備えた作業場が見える。

「米と水、穀物を自然醗酵させて造る韓国の麹・ヌルクのみを原料に、月に400本(年間約1800ℓ)のマッコリをここで生産しています」

ヌルク
ヌルクは丁寧に韓紙に包んで保管する。

〈ユンジュダン・スタジオ〉代表のユン・ナラさんは2019年に韓国料理と伝統酒の店〈ユンジュダン〉を開業して、24年1月にこの醸造所を稼働させた今注目の造り手。日本でよく見るマッコリとは違い、人工甘味料を一切使わずに仕込みを行う。

日本では酒税法で、アルコール度数1%以上の酒を自家醸造して販売することを禁止している。酒造免許取得のハードルも非常に高く、清酒やビールの場合なら、1年間に60㎘以上の量を製造しなければならない。

比べて韓国では1917年に自家醸造が規制され、60年代の食糧難の時代には穀類で酒を造ることが原則、禁止されたが、昨今は逆に規制緩和が進行中。95年にはマッコリの自家醸造も解禁された。個人が小規模で生産し、トライ&エラーを繰り返しながら腕を磨く環境が整い、韓国各地で新たな造り手が続々と登場中だ。

「今、醸造しているのが私たちのシグネチャー、ユンジュダン タクジュ(濁酒)。洗ったもち米を一晩浸水させて蒸したら、水と全羅道(チョルラド)・光州産の伝統製法で造られたヌルクと合わせてもろみを仕込みます。これを壺に入れ一定の温度で1ヵ月ほど発酵させると、ヌルクに混ざった酵素や野生酵母、乳酸菌が、もろみの糖化とアルコール分解を促進します」

ユンさんが発酵を終えたもろみを濾過した後にボウルに落ちる、あらばしりを試飲する。フレッシュな乳酸の発泡感に加え、濃厚な果実のフレーバーに衝撃を覚える。これを低温で2ヵ月熟成させ、風味が落ち着いたら完成。スーパーなどで流通するマッコリは加熱処理を経て出荷されるが、この醸造所では火を加えずに“生マッコリ”として販売する。ちなみにアルコール度数は12度だ。

「これは朝鮮王朝時代の『釀酒方(ヤンジュバン)』という書物にある浮蟻酒(トンドンジュ)をユンジュダン流にアレンジしたマッコリ。その土地土地の野生酵母を含んだヌルクを使えば、さまざまな風味を醸せることも、数百年前の記録が教えてくれます。それほどにマッコリ造りにおいて、ヌルクは重要なんです」

ユンさんいわく、今も残る朝鮮王朝時代の文献には約600種類の伝統酒のレシピが記録されているとか。そしてその手引は大体、家庭料理の作り方とセット。これは昔から朝鮮では自家醸造が盛んで、また酒はおいしい料理と切っても切れない関係であったということの証左だ。

先人が伝える、韓国料理と伝統酒をペアリングする喜び。それを楽しめる場所が居酒屋〈ユンジュダン〉。自社商品&マッコリに限定せず、韓国全土の多種多様な伝統酒を揃える。

〈ユンジュダン〉の料理。
〈ユンジュダン〉の料理。手前からチーズジャガイモチヂミ23,000W、ジャガイモ団子が入ったエゴマオンシミ24,000W。

「実は今、自家製ヌルクで初めてマッコリを仕込み中です。そして全国には、私と同じく新たな挑戦をする醸造家が多くいます。ぜひ伝統酒の未来を感じに、ここに来てください」

ユンジュダンが選ぶマッコリ3本

ユンジュダンが選ぶマッコリ3本
左から、自社醸造で柑橘の風味が漂う「南山の夜」「ユンジュダン タクジュ」、イチジクの葉の野生酵母を含むヌルクを使う全羅北道・淳昌の醸造所〈チランジヒョ〉の「チランジヒョ」。