監督自ら映画化を熱望した『マイ・ブロークン・マリコ』が公開
新作『マイ・ブロークン・マリコ』でタナダユキ監督が撮ったのは、亡くなった親友の遺骨を奪って衝動的に旅に出るヒロイン。原作漫画を読んで、彼女の、カッコ悪いところをさらけ出しながら、答えを求めずエネルギーのままに突き進むキャラクターにガツンと惹かれたそう。
「私はちょっと矛盾している人の方が撮りたくなるのかも。生きていくうえで、逐一気持ちの整理ってできないもの。一時の心情や衝動に翻弄されても前に進む人の方が、自分にとってはリアルに響いてくるんですよね」
原作は、2020年に単行本が発表され話題になった平庫ワカによる同名漫画だ。本作は、辛い過去を持つ親友・マリコが亡くなったことを知った主人公のシイノが、衝動的に彼女の遺骨を奪って旅に出るロードムービー。友情とも恋愛とも形容しがたい、2人の強固で特別な関係性が描かれる。
「原作からはシイノが感じた衝動や悲しみ、やるせなさがダイレクトに伝わってきて強く惹かれました。“ほかの人に撮られたら悔しい”とすら思ったんです」
原作の素晴らしさと本質を描き出すために
映像化にあたっては「原作の素晴らしさを伝えたいというシンプルな思いでした」とタナダ監督。製作過程では、前日譚にあたるエピソードを足す案も出た。
「マリコが亡くなる当日の朝を描いた短い漫画が発表されて、それを映像に盛り込む案も出ました。脚本を一緒に進めていた向井(康介)さんが試しに書いてみてくださったんですが、書いた本人が、“これって、マリコの死因を探す旅じゃないですよね”と。作品のファンとして、あの追加エピソードには救われる思いもありましたが、映画に入れることで本質がぶれてしまうかもしれないなと。入れない判断をするきっかけをもらえました」
また本作では、清純な役が多かった永野芽郁が新境地を切り拓(ひら)き、ガサツなヒロインを演じたことも見どころ。演出面ではどんなことにこだわったのだろうか。
「こうしてほしい、ああしてほしい、と細かく伝えすぎないことを意識しているかもしれません。自分の想像を超えてほしいので。それに正直、台本以上に伝えたいことってないんです。それくらいのものを作っています。受け取った俳優がまずは現場でどう体現してくださるのか、それがいつも楽しみなんです」