ピラミッドと聞くと財宝をめぐるトレジャーハンティングを想像してしまうが、それは大昔の話。現代の考古学者にとっての財宝とは、知識やデータそのものだ。
「建築方法や古代エジプト社会の姿については様々な研究機関が仮説を発表しています。それらを検証するためには、実物から得られるデータが必要です。しかし、現実にはエジプト政府から調査の許可を取るのも難しく、好き勝手に調べることはできません。だからデータは、とても貴重なんです」
そんな中、河江さんが長年進めるのがピラミッド建造の「標準モデル」と言える仮説の提示だ。ドローン撮影によって3Dモデルを作ることで、仮説先行の考えを参照しつつ、実測値から真実を導こうというのだ。
「積み上げられた一つ一つの石まで見える精巧なデータによって、これまでの仮説とは異なる内部の構造体が明らかになりつつあります」
プロジェクトは現在も進行中だが、調査現場は決して楽な環境ではない。ドローンが使えないときには、自らがカメラを持ち、体一つでピラミッドの頂点まで登ったこともある。
「それ自体が文化財なので命綱を掛けることもできません。足を踏み外したら一巻の終わりなので、細心の注意が必要でした」
特に厳しいのは、地方での調査だ。ギザの周辺は都会なので困ることは少ないが、ライフラインが発達していない地方においては、生活環境も自ずと厳しくなる。
「水はもちろん重要ですし、食べ物や暑さで体調不良者が続出することもあります。一度、ほとんどの隊員がお腹を壊すことがあり、呪いだと話していました。まあ、そうやって冗談を言っていられるうちはまだいいのですが、長い滞在になると、本当にタフな現場です」
河江さんがピラミッドに魅せられたのは、19歳の頃。
「最初は憧れのような漠然とした興味でしたが、研究に携わるにつれ、現実の泥くささを知りました。でも、物語というのは幻想が崩れたところから始まるもので、未知なものに感じるロマンから、解き明かすロマンへと興味が移っていきました。ピラミッドは神秘的なものではなく、古代の人々の営みの痕跡。それをヒントに、これからも人間の底知れないパワーと向き合っていきたいです」

河江さんの冒険を感じる旅先へ

エジプト・ギザ台地
成田からカイロ国際空港へ直行便で約14時間。空港から車で50分ほど行くと、ピラミッドのあるギザ台地へ辿り着く。「観光なら、高台から9つのピラミッドを眺められるレストランもおすすめです。街中にも石を切り出した跡が残っていたりするので、当時の人間の営みを感じられると思います」(河江)