アニメを観る側の人と、同じ視点を持ち続けたい
1988年生まれのアニメーター五十嵐祐貴さんが注目される理由の一つが、あらゆる仕事を1人で担える才能だ。昨今のアニメーションは分業が主流。原画や絵コンテ制作、演出、監督などをそれぞれのプロが担当し、一つのパートを数人で行うことも少なくない。
なのに五十嵐さんときたら、テレビアニメ『呪術廻戦』1期エンディングの原画を単独で手がけ、公開半年で2000万再生を記録。『映像研には手を出すな!』の3話では、絵コンテや演出、作画監督に加えメカデザインも担当し、原作者から“神回”と称えられた。
かくも多才な五十嵐さんだが、最初に目指したのは書道家。古風な書の世界をアニメで変えられないかと絵を描き始め、アニメ業界に飛び込んだ。
「多くの人は、キャラを描きたい、演出をしたい、と分野を決めてこの世界に入ってくるけれど、僕は純粋に“面白いアニメを作りたい”と思っているんです。作画だろうとメカデザインだろうと監督だろうと、それで作品が良くなるなら何でもやってみたい。領域を超えることに抵抗はありません」
美術、音楽、小説と新旧問わず貪欲に吸収し、アニメを面白くするための“手札”も増やしておく。例えば『呪術廻戦』で絶賛された、ダンスと作画のハイレベルなミックスは、「ブルーノ・マーズが出てきた頃、彼のMVのレトロでポップな感じをアニメでも、と溜めていたアイデア」だ。
「自分の強みやリソースを客観視しつつ、ふさわしい場所へ配分している感覚です。全部1人でやりたいわけでもない。大切なのは、目指す表現を実現するために、誰かの力と僕の力をどう割り振るか、だと思っています」
過去、現在、未来を繋ぐため
日常との接点を持ち続けたい
「忙しい時ほど睡眠をとり、毎日必ず野菜を食べる。いかにパフォーマンスを下げずに走り抜けるかが大事。30年後も面白がりながら作り続けたいので」
7月にはアニメーションスタジオ〈OUTLINE〉を開設した。スタジオの机には雑誌『アニメージュ』が並ぶ。44年前の創刊号も繰り返し熟読する。
「アニメが世の中の人にどう捉えられてきたのかに興味がある一方で、今、どんな人が自分の作品を観てくれているのかも強く意識しています。作品に過去のマニアックなネタを潜ませたりもしますが、ネタの意味を知らなくてもちゃんと喜んでもらえるよう工夫する。過去に敬意を払いつつも、視野と間口を広げておくことで、現在の創作へと自然に繋げられたらと思うんです」
そのためには、今アニメを観る人と同じ感覚を持てることが必要。「だからファミレスが好き。誰かの日常会話や社会の雑音の中に身を置きながらノートに落書きをしていると、いいアイデアが浮かぶことが多いんです」
五十嵐さんが今後手がけてみたいのはオリジナルのロボットアニメ。「90年代のロボットアニメのようなセンス・オブ・ワンダーの世界を、日常系アニメが主流になった今のファンにも伝わる方法で作りたい。そう考えると、ダンスや音楽というポップな媒介や、ファミレスという日常空間で過ごす時間が大切になるんですよね」
五十嵐祐貴さんの
クリエイションの源
次を生み出す仕事術
1. 自分の“武器”を見極めて、適材適所に配分する。
2. 新しい音楽やMVは貪欲&ジャンルレスに摂取。
3. パフォーマンスを保つために毎日野菜を食べる。
4. マニアックに作る時ほど、初心者も楽しめるように。
5. 古典に敬意を払ったうえで自分の色をつけていく。