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グラフィックデザイナー・髙田唯にインタビュー。視点を変えると、人生はもっと豊かに

紙媒体の広告や書籍、ロゴ・シンボルマークなどの制作を中心に、最近ではデジタルメディアやモーショングラフィックスの分野でも活躍する髙田唯に話を伺った。

photo: Aya Kawachi / text: Hiroya Ishikawa

この夏、銀座で展覧会を開催。

7月11日からギンザ・グラフィック・ギャラリーで展覧会を行うのが、グラフィックデザイナーの髙田唯さんだ。2013年からは東京造形大学の教壇に立ち、教育にも携わる。また、中国や台湾で展示を行ったところ、無秩序で自由な作風が現地で"ニューアグリー"と評され、注目を集める存在にもなっている。

そんな髙田さんにとってギンザ・グラフィック・ギャラリーは、特に学生の頃、展示のたびに足を運んでいた憧れの場所だ。展覧会のタイトルは『Yui Takada with ori.studio CHAOTIC ORDER 髙田唯 混沌とした秩序』。それが意味することについて、髙田さんはこう話す。

「僕の中には混沌と秩序の両方があって、デザインに関しても根っこの部分には”揃えなきゃ”っていう気持ちがありながら、そこからはみ出したい自分もいて、いつも両極端に揺さぶられながら、その間を行ったり来たりしているんです」

スポーツ新聞からもデザインを抽出

自身をグラフィックデザイナーでありながらアーティストに近いと話す髙田さんは、およそ10年前から絵を描き始めるなど、仕事以外にももの作りを行っている。また、大学でゼミを担当するようになってからは、学生たちになにを伝えればいいのかを探る過程で、身近なものの中にあるグラフィック的なものを模索するうちに、例えば、スポーツ新聞の紙面や週刊誌の中吊り広告など、一般的に美しいとは思われないものにも目が行くようになり、そこに隠されたグラフィック的な要素を学生と一緒に炙(あぶ)り出す試みも始めた。

「スポーツ新聞は斬新な文字組みや派手な色使いなどお行儀の悪さがどこか羨ましくて、ずっと気になっていました。そこで文字や写真を部分的にトリミングしてみたら、デザイン的に大胆な絵柄が出てきてとっても魅力的だったんです」

そんな髙田さんによる今回の展示は、これまでのクライアントワークを紹介するものではなく、自身が今、やりたいことを表現したものだ。会場は1階と地下1階の2フロアに分かれ、1階には髙田さんが今ハマっているという凧(たこ)を展示する。

「小さい頃から凧が好きで、国や文化によって形や絵柄が違うところに惹かれます。表現の場としても自由度が高く、さまざまな可能性も感じますし、なにより凧揚げ自体が楽しいですね」

髙田唯 イラスト
髙田さんのデザインによく登場する人のモチーフの原型が、幼少期に描いたキャラクターだ。

今回は手描きとシルクスクリーンで作ったカラフルな凧が会場を埋め尽くす。数は100張ほど。混沌としているようで凧としての型はあるので、秩序立った空間になるだろうと髙田さんは話す。

地下1階には北京を拠点に活動するデザインスタジオori.studioが、今回の展覧会に合わせて作った髙田さんの作品集をベースに、本の中身をひっくり返したような展示を行う。会場構成は空間・プロダクトデザイナーの西尾健史さんが担当。段ボールを什器(じゅうき)として使い、縦に積んだり、三角形に造形したりしながら空間を埋めていく。

「大学では毎年テーマを決めて特定のデザインを収集し、表現の違いを見つける試みも行っています。例えば、世の中の禁煙マークを写真に撮り、並べて比べたりしているんですが、それらも含めて視線の当て方や角度を少しだけ変えることで得られる日常の小さな発見や、多様な実験の成果を会場で表現する予定です。"混沌とした秩序"の中から、人生が豊かになるような面白いものを見つけて共有してもらえたら、僕も嬉しいです」