今年4月、東京・恵比寿ガーデンプレイス内に誕生した〈ヱビス ブルワリー トウキョウ〉。1890年に発売し、町の名の由来にもなったヱビスビールが、原点となる町で再開した待望の醸造施設。天井高のある空間は、ミュージアムとブルワリー、タップルームで構成される。
「ここはいわば百三十余年の歴史を伝え、新たなビール文化を発信するヱビスビールの座標軸。ルーツ、現在、未来を体感できる場所です」と語るのは、醸造責任者であるヱビスブランド チーフ エクスペリエンス ブリュワーの有友亮太さん。
大学の農学部で発酵を学び、入社後は製造や商品開発等を経てドイツの醸造教育機関に留学。ブリューマスターの資格を持つ気鋭の醸造家だ。この施設では、彼がレシピを設計した出来たてのビールが味わえる。
「施設の顔となる定番の《ヱビス∞(インフィニティ)》は、お客様にヱビスらしさが伝わるようストーリー性のある味わいに」と、創業時に使われていたと思われるドイツ産ファインアロマホップ「テトナンガー」を一部使用し、代々ヱビスビールのみに使われる通称“ヱビス酵母”を採用。フレッシュなホップの香りが立ち上り、スッキリとして飲み応えもある“王道かつ今らしい”味に仕上げた。
浅煎りコーヒーをイメージしたという黒ビールの《ヱビス∞ブラック》は、柑橘系の香りを持つホップを使い、フルーティで重すぎない喉越しが心地いい。さらに開業時に登場した、燻製麦芽によるスモーキーな《煙々(えんえん)》など、発想力に富んだ月替わりの限定も力作揃いだ。
「展示している釜に触れられたり、お客様と私が直接意見交換できるマスターブリュワーズルームを設置したりと、体験の場を多く設けたことも今らしい試みでは」(有友さん)
ゲストは出来たてのおいしさをダイレクトに体験し、造り手はゲストからのフィードバックを柔軟に取り入れていく。円熟したブランドでありながら前進を続けるヱビスビールらしい、新たなコミュニティの形だ。
「世界中のどこでも、自分が楽しいと感じる場所で楽しく飲めるのがビールの良いところ。ここもそんな場所にできたら」と有友さん。彼が設計した無二の一杯を味わい、“ヱビスビールの未来”を体感してほしい。