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「1億人を熱狂させるマネジメント論」秋元康

AKB48、乃木坂46、櫻坂46、日向坂46、僕が見たかった青空……これまでに数え切れないほどのアイドルをプロデュースしてきた秋元康さん。日本国民を熱狂させてきた最強のグループを、秋元さんはどのようにマネジメントしてきたのだろうか?その答えには、ビジネスにも使える普遍的で、究極のマネジメントのヒントが隠されているはずだ。

本記事も掲載されている、BRUTUS「大人になっても学びたい!」は、2023年10月2日発売です!

photo: Kazuharu Igarashi / text: Asuka Ochi

“国民的アイドルグループ”たちはいかにして作られたのか?

僕がプロデュースしているAKB48や乃木坂46などのアイドルグループには、それぞれ所属するプロダクションや運営会社があり、現場にマネージャーと呼ばれる人たちがいます。その中で自分は総合プロデューサーとして、もちろんクリエイティブなことは指揮しますが、マネジメントはしていないんです。

実は一番苦手な分野なんですよね。ただ、アイドルのほかにもドラマや映画などいろいろなプロジェクトに関わってきて思うのは、優れたマネジメントというのは“人のいい部分だけを見ること”だと思っています。

例えば、企画書を書くのが上手な人なら、たとえ時間にルーズだろうが、その部分には目をつぶる。不平不満が山ほどあったとしても、スルーできるバランスを持てるかが決め手でしょうね。僕の場合、なかなかそうはいかなくて、自分にも厳しい分、スタッフにも求めすぎてしまう。

それは美空ひばりさんに学んだことでもありますが、彼女は誰かが現場に1分でも遅れたらそれで終わりというほど厳しい方でした。でもそうすることで、自分も遅刻はしないという関係性を成り立たせることができる。馴れ合いで何かを成し遂げるより、みんながピリピリしている方がいいものができるんじゃないかという昔ながらの考え方が僕にはいまだにありますね。

一方で、マネジメントのプロたちは「あいつはココがダメだよね」と言っても、必ずや「でも、ココがいいんですよ」と返してくる。なぜなら100%完璧な人間はいないからで、マネジメントというのは、そういう完璧でない人たちでいかに『がんばれ!ベアーズ』(弱小野球チームの成功物語)を作れるかだと思うんです。

だから、僕がまず理想のチームを集める時は“自分の望む人はいない”という想定の下でやっています。よく企業が入社面接を何度も繰り返したりしますが、それでは絶対にわからない。だったら100人を仮採用した後で選んだ方がいい。

アイドルのオーディションでも僕が審査をする場合は、僕1人でも上層部だけでも決めません。歌唱力やルックスなどの項目に分けて点数をつけるような数値化もさせません。もし10人審査員がいるとしたら、8人目、9人目には数日前にレコード会社に入ったばかりの人や、手伝いでチームに加わった人にも参加してもらって、その人が一番いいと思う人を入れる。

それは誰かがどうしても入れたいという人の後ろに、彼らと同じ好みの人が必ず何百人かはいるからです。安易に数値化してしまうと平均点以上ではあっても、誰が推しているのかわからないような人を選ぶことになる。みんなが「どうしてこの人がいいの?」と言い合えるような人ほど個性があるんですよね。審査員同士が互いに理解できないチームには、それだけ多彩な人が集まっているということなんです。

バラバラの個性を集め、個々の“色”を育てる

僕には、ダイヤモンドの原石を見つけるような審美眼や先見の明があるわけではありません。ただそういうふうにして集めた多彩な人たちをある種、自由にして、旅をさせているうちに見えてきたキャラクターに合わせてもの作りをしているんですね。

マネジメントチームがみんなを緩やかに率いながら、山を越えていくと、中には座り込んで動かなくなってしまう者もいれば、逃亡したり、喧嘩したりする者もいる。その様子からそれぞれの特性を汲み取ったうえで動かしていくんです。

よくアイドルというのは、アイドルという名の真っ白なキャンバスに色をつけていくものと思われがちですが、そうではなくて。自由奔放に振る舞っていると、それぞれの“色”が出てくる。それが淡いブルーなら、それを生かすにはこうしようというふうに、僕の役割は彼女たちがもともと持っている個性や魅力を引き出していくことです。

例えば、AKB48グループの中で指原莉乃は、研究生時代には多くの人がノーマークだったと思います。それが2010年の春にブログを始めたというので読んでみたら……。