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ロック漫筆家・安田謙一が語るプール・ジャケの涼しい世界

素敵なサマーにつきものなのは、極上な音楽。まさに夏にぴったりのプールがジャケットに入った"プール・ジャケ"をご紹介。

初出:BRUTUS No.826「Summer Time, Summer Music」(2016年6月15日発売)

text: Kenichi Yasuda / edit: Izumi Karashima

プール・ジャケの涼しい世界

ホルガー・シューカイも「プールでクールになりましょう」って歌っていますが、POOLとCOOLは韻を踏むべくして踏んでいる言葉です。プールを取り込んだレコード・ジャケット。音楽以前にジャケだけ眺めて涼を取る、というのも一興かと。

本誌826号の表紙をご覧いただくまでもなく、イラスト作品にも傑作が多いプール・ジャケットだけど、この記事では写真による作品を並べて眺めてみよう。水質保全のための塩素の香りがしてきました。

まずはXTCのアンディ・パートリッジのソロ作(1)。プールに無数に浮かべられたのは、1950年代に一世を風靡したジェーン・マンスフィールドのノベルティ商品、人形型の水筒。圧巻の肉体美で売りだしたジェーンですが、もともとは彼女の姿が写っている写真がトリミングされて、ジャケでは上部に足だけ写っています。もったいないといえば、もったいない。

プールサイドに脱ぎ捨てられた水着を見てニヤニヤするのはロバート・パーマー(2)。名演出。名演技です。

LA出身のニュー・ウェイヴ・バンド、ザ・モーテルズのデビュー盤(3)。写真家のエリオット・ギルバートはトム・ウェイツ『ブルー・ヴァレンタイン』やザ・カーズのファーストなど、どこかノスタルジックな世界をモダンに昇華させる名人です。

南佳孝(4)は写真を使うことで、そこに流れる時間が追憶の彼方にある、ということが上手く表現されています。南佳孝に続いて、着衣でプールに入っているのがママス&パパス(5)。フォト・セッションの末に「帽子に入ったプールの水をみんなが飲もうとしている」という不思議なシーンが採用されちった……という雰囲気です。

ママス&パパスのジャケも米国の「プール・パーティー」という慣習の流れだと思うのですが、パンダ・ベア(6)になると、パーティーの枠が広すぎる気もします。プールというよりジャグジーのような空間にぎっしり混浴。無礼講にも程があります。

こういうプール・ジャケを集めていることを知った友人からプレゼントされたのは、英国のバンド、グッド・シューズ(7)。こういう屋内プールを使ったものって、意外と少ないんですよね。実際に“泳ぐ人”としては、無性にスイミング欲が湧き出てきます。

カントリー界の大御所ウェブ・ピアス(8)は、おそらく自宅にあるギター型のプールが。これは欲しいなあ。レコードも、プールも。

最初、プール・ジャケで涼を取ろうという目論見でしたが、こうして四角く切り取られたプールのある光景を眺めていると、どこか孤独なイメージもあることに気がつきました。特に(1)や(4)には気怠さも漂っています。まるで“風も動かない”世界です。

ありそうでないのが、AVやPVの撮影ロケ地として知る人ぞ知る、ついには単行本にもなった「例のプール」をロケ地として使ったプールジャケット。出来れば、ベッド・インのふたりにハイプにキメてほしいものです。