殺伐とした「就活」の中にも
不器用な思いやりと
秘められた善意があった

ミステリーといっても、数年前に流行した、露悪的でバッドエンドの“イヤミス”とは対極の温かな読後感をもたらすのが、人気企業の最終選考に挑む大学生たちを描いた本作。
優秀に見える学生たちの醜さが次々と暴かれる前半から一転、その数年後を描く後半では、一見傲慢に見えたそれぞれの行為の根底に互いへの思いやりがあったことが明らかに。
「就活」という特殊な状況を生き抜くために、相手を蹴落とすよりもやさしさが用いられたことに救いを感じると同時に、人の本質を見る大切さに気づかされる。そして、発売後即重版がかかるほどこの作品が支持されること自体、人々がやさしさを求めている証拠であろう。
当たり前だが、彼らは全員、完全な善人ではなかったかもしれない。
『六人の嘘つきな大学生』より
でも完全な悪人であるはずがなかったのだ。
談・佐々木敦