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長田杏奈が語る“自分に、やさしく”「自分の本音と社会に目を向けながら、行きつ、戻りつ、日々を積み重ねる」

人生に行き詰まったらまずは休んでみよう。肩の力を抜いて自分と向き合えば、誰かにやさしくなれる。美容と自尊心の関係を説く長田杏奈さんに“ご自愛”の必要性を聞いた。

Illustration: Fuyuki Kanai / Text: Yoko Hasada

生活を作っている社会との回線を、
無意識に切ってしまわないこと。

「私なんて……ダメだ……」。生きていると自分の価値を疑わされる場面がたくさんある。きちんとした人と自分を比べて、欠点ばかりにフォーカスを当てては自己否定。でも、ただ「生きているだけ」の状態も尊いと私は思うんです。つまり、自尊心とは、自分の情けないところも、ダメなところも「こんなもんだよな」と大らかな気持ちで付き合うことなんです。そうやって、ゆるく自分を大切にすることで、誰かにやさしくするための余白が生まれます。

他者と比較し、自分の本音から離れるほど自尊心は揺らいでいきます。近頃の小学生は塾で「克己」というハチマキを巻いているらしいのですが、たしかに自分に勝つことが必要な場面はあるけれど、「克己癖」がつくと自分の人生を生きづらくなるのではないかと思うんです。耐えたらいつか報われるはずだと信じて、自分の喜びを先送りにし、疲弊した自分を殺し続けることの不健康さ。もっと、理性と自分の心が求めるものの折衷案を探って、自分自身を軸に考えてみるのはどうでしょう。

そのためには、自分と2人きりになれる時間を作ることが必要。私の場合は考えすぎてしまうタイプなので、頭を一回オフにして、感覚が研ぎ澄まされることをすると自分の本心がわかってきます。犬と戯れ合ったり植物の変化に一喜一憂しながら世話をしたり。一日の中で、息継ぎのような、そういう時間を持つことで、調子が保てるんです。身なりも、無理に整える必要はなくて、例えば手抜きをした日は「簡素な私」と言葉を変えるだけで心の持ちようも変わるはずです。

でも、落ち込むことが決して悪いとも思いません。中医学では感情を喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の7つに分ける「七情」という考えがあり、どれかに偏らず調和が取れている中庸こそ、“いい状態”とされています。喜びは多ければ多いほど、怒りは少なければ少ないほどいい、というのは幻説なのかも。自然に湧いてきた感情を殺さないためには、なるべく自分や他人の人格をジャッジしないことも大事。大好きな番組『クィア・アイ』の“ファブ5”の「ノンジャッジメンタルクイーン」(ジャッジしない私たち)を目指した方がいいのです。

また、社会に関心を持つことも、自分にやさしくするために大切だと思います。社会との回線をむやみにシャットダウンすることは、ある意味セルフネグレクトです。自己責任だと思い込んでいた個人的な悩みや困難の元凶が、実は社会や大きな構造の問題であることも。

関心の範囲を身の回りから少しずつ広げて、自分の尊厳を傷つけない環境を選んだり働きかけたりすることは、広義のセルフケアに当たるんじゃないかな。自分を取り巻く社会の物事に対して、積極的に行動したり発言したりしなくても、できる範囲でアプローチしたり考えを持ったりすることは、巡り巡って自分を大切にすることにつながるのです。だから、自分の本音と社会に目を向けながら、行きつ、戻りつ、日々を積み重ねていってほしいです。