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椅子に使う代表的な8樹種について学ぶ。監修・宮本茂紀

世界各地で育ったさまざまな木は、表情はもちろん、手触りも異なる。椅子に使う代表的な8樹種の特徴をまずは覚えてみよう。指南役は二百余種の木で同じデザインの椅子を作ってきた、日本が誇る家具のマイスター、宮本茂紀さんだ。そして同じ木でもオイル、ラッカー、ウレタン、ソープといった仕上げの塗装次第で表情や手入れの仕方が変わるので、購入時はどんな仕上げでどう手入れするのがいいかも確認するといいだろう。

photo: Satoshi Nagare / text: Satoko Suzuki

Mahogany(マホガニー)

輝くような光沢が
にじみ出てくる高級材。

赤褐色が特徴的な木材で、木の繊維自体が輝くような光沢を持っており、さらにその光沢は使い続けるほどに増していく。

写真のフォーボーチェアは被膜を作らないオイル仕上げだが、被膜を作るようなウレタン塗装で仕上げていたとしても、経年変化が楽しめるのがマホガニーのいいところ。高級材といえばまず名前が挙がる木材の一つだ。

なかでも中南米産のホンジュラスマホガニー(ヨーロッパではメキシカンマホガニーとも呼ばれている)は世界的にその良質さが認められている。堅い木だけれども加工しやすく、耐久性も優れている。

Teak(チーク)

船の甲板にも使われる
強度と耐水性を持つ。

心材(木の中心部)は淡褐色・黄褐色・褐色と幅があり、なかには黒色の縞が出ることも。辺材はほぼ白色。マホガニーと並ぶ高級材である。

タイやミャンマーなど東南アジアが主な産地だ。華やかさはないものの飽きのこない木目を持ち、素地のままに近いオイル仕上げならば時とともに光沢も出てくる。

チークは良質の油である木製タールを含んでいるため、堅い材であるにもかかわらず実になめらかやわらか、しっとりとした手触りが魅力の一つ。
しかし近年、無垢材がほとんど流通しなくなってしまったため、残念ながらチーク製の椅子は減ってきている。

Oak(オーク)

建築の巨匠も愛した
この木の個性。

心材は淡褐色や濃褐色で、淡くピンクがかっているものもある。使ううちに深みのある茶褐色へと変化していく。辺材は白色であることが多い。オークは日本で言うところのナラの総称で、世界には約450種ものオークがある。

椅子に使われるオークは北米とヨーロッパが主な産地で、ホワイトオーク、レッドオーク、シルバーオークなどがある。加工しやすく、強度も耐久性もあるホワイトオークはウイスキーの樽用材としても知られている。

全体に表情は硬質で個性があり、フランク・ロイド・ライトは斑の入ったオークを建築の装飾材に好んで多用したという。

Walnut(ウォルナット)

使う人にも、作る人にも
やさしい木材。

心材は紫がかった褐色で、濃淡の縞があることが多い。表情に富み、温かみがあり、艶もあって磨くと美しく光る。そして多少汚れても目立たない。
さらには軽いわりには強度も粘りもあって、狂いも少なく、加工しやすい。そう、作る側にとってもとても扱いやすい優等生。

木材としての欠点といえば、水を吸うと腐りやすいことと虫がつきやすいことぐらい。マホガニー、オーク、アッシュ、そしてこのウォルナットの4種が、ヨーロッパの家具を代表する4大木材といわれている。
ちなみにアメリカンウォルナットは、欧州のウォルナットを接ぎ木してできている。

Cherry(チェリー)

歳月を経るごとに増す
赤褐色がこの木の証し。

心材は赤みがかった茶色であることが多く、辺材はもっと白い。心材は時間が経つとより濃い色になり、艶も出てくる。だからチーク同様、オイル仕上げが向く樹種といえる。

欧州、特にデンマークの高級家具に使われることが多い樹種で、アメリカ産のブラックチェリーがその代表選手。オイル仕上げはから拭きしてからオイルで磨くメンテナンスを定期的に行う必要があるが、手間をかければかけるだけ豊かな表情が生まれる。

育てる楽しみを味わいたい向きにおすすめの仕上げだ。日本のサクラ材はブラックチェリーに比べると素材そのものの表情もやわらかい。

Ash(アッシュ)

細くて軽い椅子ができるのは
この木のおかげ。

心材はやや黄みがかっていて、辺材は白色。木目は細かい。アッシュの最大の特徴は、粘り。粘りがあるから折れにくくて強度も抜群、ゆえに軽くて細い椅子が作れるのだ。

写真のスーパーレジェーラに使われているのはヨーロピアンアッシュで、北米産のホワイトアッシュと比べてより軽く、より粘る。しかしさらに粘る木がある。

アッシュと同じモクセイ科、北海道産のアオダモで、野球のバットに使われるほど。稀少価値が高いため家具に使われることは少ないが、宮本さんはこのアオダモを用いて、なんとスーパーレジェーラよりも軽い椅子を作っている。

Maple(メープル)

あのシロップ、
実は椅子にも役立っている。

心材はクリーム色から淡赤茶色にわたる。辺材は赤茶色を帯びた白色。時を経ると飴色になり、光沢も出てくる。
欧米では古くから家具材として重宝されてきた樹種で、メープルが属するカエデ科カエデ属は世界中で300種近くあるという。

メープルは堅さの具合からハードメープルとソフトメープルに大別され、椅子にはハードメープルの方が多く使われている。粘りがあるため曲げ加工などもしやすい。

手入れするほどに美しく飴色になる経年変化は、糖分=メープルシロップが酸化することにより、起きるのだとか。椅子にも役立つ甘味なのである。

Beech(ビーチ)

あの椅子もその椅子も、
この木でできている。

全体に淡い白色を帯びているビーチは、オークと同じブナ科に属する、椅子需要ナンバーワン木材。トーネットの曲げ木の椅子、マットソンのMINA、ヤコブセンのアリンコチェア、みんなビーチでできている。

堅くて粘りがあるから曲げやすく、薄くスライスすれば積層合板に、そして世界各地で豊富に採れるから価格も抑えめ。なかでも欧州の日照時間が短い土地のビーチは白色で美しい。

黴やしみが入りやすいので、クリアのウレタン塗装で仕上げることが多い。ちなみにバーチというよく似た名前の木があるけれど、こちらはカバノキ科。もちろんまったく別の木です。