比類なき“言葉の人”である男が、
最も尊敬されるリーダーに選ばれるまで。
2017年、ウィンストン・チャーチルを主人公に据えた映画が相次いで2作公開された。『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(以下『ヒトラーから〜』)と『チャーチル ノルマンディーの決断』(以下『ノルマンディーの〜』)だ。前者でチャーチルを演じたゲイリー・オールドマンがアカデミー賞主演男優賞をとったうえ、彼に特殊メイクを施したのが日本人の辻一弘だったこともあり、日本でも大いに話題になった。
しかし、チャーチルが映画に登場するようになったのはいまに始まったことではない。実に60作以上もチャーチル関連作が作られているのだ。なぜここまで登場するのかといえば、ひとえにイギリス本国で途轍もなく尊敬されているからだろう。実際、2013年に発表された「世界のCEOが選ぶ最も尊敬するリーダー」では、ガンジーやマンデラを抑えて第1位に輝いている。では、何がそこまですごいのか。
いくつかの作品を通して見えてくるのは、チャーチルが比類なき“言葉の人”だったということだ。若き日のチャーチルを描いた『戦争と冒険』を観るとわかるように、彼はもともとインド反乱部族鎮圧やボーア戦争の従軍記者であり、それを基に書かれた体験記で名を上げ、1900年に25歳で政治家になったという経緯がある。
第二次大戦中の1940年、首相に任命された直後から幕を開ける『ヒトラーから〜』でも、“言葉の人”としての側面が強調される。当時、イギリスはナチス・ドイツに劣勢を強いられており、議会の大半は和平交渉すべしという意見に傾いていた。そんな中、“勝利”にこだわるチャーチルは戦争続行を譲らず、最終的にその旨を断言する大演説をぶって、反対する議員たちを打ち負かしてしまう。これを聞いた一人の議員はこう語る。「彼は言葉を武器に変え、戦場に乗り込んだ」と。同じく第二次大戦中の1944年、連合国軍が遂行しようとするノルマンディー上陸作戦に対峙する彼を描いた『ノルマンディーの〜』も同じく、彼の感動的な大演説シーンをクライマックスに据えている。
ところで、チャーチルはもう一つの意味でも“言葉の人”だった。『ヒトラーから〜』でもネタにされているが、ひどく滑舌が悪かったのだ。それはほんの数シーンしか登場しない『英国王のスピーチ』や『イングロリアス・バスターズ』にすら描かれているくらいだから、彼の重要な個性だったのだろう。もしかしたら、この特徴的なしゃべり方だから、彼の演説は耳に残り、心に響いたのかもしれない。
ちなみに、どの映画でも触れられていないが、チャーチルは首相在任中の1953年にノーベル賞を受賞している。それが平和賞ではなく文学賞であったことが、彼が“言葉の人”であったことをなにより証明しているのではないだろうか。