教えてくれた人:宮嶋勲(ワインジャーナリスト)
同じ品種を飲み続ける
ワインは飲むけれど、酒屋に行ってもどのボトルを買えばいいのかいまいちピンとこない。そればかりか、レストランでワインのメニューを開いても正直なにがなんだかわからないこともある。
結局、ちょっとだけ劣等感を抱きながら「中くらいの」とオーダーすることにも慣れてしまった。なにから手をつけたらいいのか?
「まずは自分の軸を作るといいですよ。簡単なのは“ブドウの品種”で選ぶこと。“シャルドネ”“ピノ・ノワール”などラベルを見れば書いてあります。飲んでみて好みを見つけたら、ひたすらその品種を飲み続けてください。その味を舌が覚えれば軸は完成です」と、宮嶋勲さん。
確かにわかりやすいけれど、ワインというと「ボルドーワイン」や「ブルゴーニュワイン」など、品種より土地のイメージが強い気がする。
「それは主にヨーロッパでの話ですね。テロワールワインと呼ばれていて、品種がどうであれ土地の特徴が強く感じられるワインのことです。ボルドーの畑で生まれたワインはどれも、たとえ品種が違っていてもどこか青っぽいトーンがある。だからラベルに“ボルドー”と土地の名前は書いてあっても品種はどこにも書いてないんです。
でもこれは極端な話、イギリス貴族のお坊ちゃま的発想。どういうことかというと、彼らは若い頃からお父さんに、例えばボルドーワインを飲ませてもらっています。そうすると、“ボルドー”の味が自然とわかりますよね。でも、これまで飲んでこなかった人、例えば日本人には伝わらないわけです。
そんな人々に向けたワインとして、“ヴァラエタルワイン”が誕生しました。チリ、オーストラリア、南アフリカなど、いわゆるワイン新興国で生産されています。その特徴はなんといっても、ブドウ品種を明記していること。
またそうである以上、その品種の味わいを強く感じられるワインに仕上がっているわけです。例えば“ピノ・ノワール”なら“ピノ・ノワール”らしくタンニンが薄めでさっぱり飲めるワインになっています」
ワインを少し深く知れた気がする。自分なりの軸をしっかり作るために必要なことをもう一つ教えてくれた。
「好みのヴァラエタルワインを見つけたら、どれがどんな味わいか言語化してみましょう。濃厚なのか爽やかなのか、甘いのか苦いのか、軽やかなのかふくよかなのか……と、自分なりの表現で構いません。言葉を尽くせば自分の好みがはっきり見えてくるし、別のワインを飲んでも味の違いとその好き嫌いを理解できるようになるはずです」
カジュアルな語彙でいいとわかるとなんだか勇気が出る。
「誰もがわかる言葉でないと、レストランで注文するときも伝わらないじゃないですか。確かにソムリエをはじめその道の専門家には、ワインを飲んで“かすかにリコリスの香りがあり、フランボワーズが混ざってスパイスが効いていて、ほんのりと腐葉土の……”なんて説明する人もいます。
これはフランス人にとっては慣れた言い方かもしれませんし、わかる人にはそれでいいでしょうが、直感的に理解できないのであれば合わせる必要は全くないのです」
手に入れやすい
メジャーな4品種
やっぱりわからない?
わかる必要はないんです
「軸ができたらあとは好きに飲むだけ。“ボルドー”のように品種ではなく産地からアプローチしても楽しめるはずです。なかには口に合わないものもあるでしょう。それも面白いものです。
ワインは嗜好品だから、また別のタイミングで飲めばすごくおいしく感じることもあります。飲みたいものを飲みたいときに好きなだけ飲めばハッピーですよ。ワインというと“全然わからないんですが……”と話す人も多いけれど、わかる必要は一切ありません。
“たこ焼きわからないんですけど”とは言いませんよね。好きなお店のたこ焼きを食べればいいんです。ワインも同じ。好きなものを見つけて突っ走ってください」