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未来を変える“学び直し”。今リスキリングをするべき5つの理由

最近よく耳にする“リスキリング”、何のことだかわかりますか?英語にすると「Re-skilling」。つまりスキルの再習得。なぜ、今この言葉が私たちに必要なのか、まずは考えてみようと思います。この記事を読み終わったら、あなたもきっとリスキリングしたくなるはずです。

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text&edit: Hirokuni Kanki

話を聞いた人:後藤宗明(ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事)

REASON 1:これから人生100年時代になるから

2050年。日本人女性の平均寿命は90歳以上──治療技術と予防医療の発達で寿命はさらに延び、100歳が当たり前の超長寿社会も遠い未来の話ではない。日本における100歳以上の人口は100万人を突破するという(国連の推計)。健康的に活動できる期間もグンと長くなる。

その頃には社会の常識が変わって60歳や70歳という年齢が、現在の40歳くらいの感覚になっているはず。第2、第3の人生を歩む人も増える。そのとき頼りになるのが、新しく身につけたスキルだ。長生きする未来を経済的なリスクだとする考えもあるけれど、ここは「それだけ長く人生を楽しめる」とポジティブに受け取りたい。

REASON 2:あの人も学び続ける大切さを説いているから

100年ライフが当たり前になれば、人生の早い時期に一度にまとめて知識を身につける時代は終わるかもしれない
リンダ・グラットン(ロンドンビジネススクール教授)

出典/『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)より。

私はもの作りに関わる仕事をしたことがなかった。インターネット関連のソフトウェア会社を2つほど共同設立したことはある。Zip2とペイパルだ。そんなわけで、ロケット科学を習得するには数年かかったよ
イーロン・マスク(連続起業家)

出典/『WIRED』誌(2012年)、和訳は『イーロン・マスクの生声』(文響社)より。

好奇心が強く、探検好きな性質は、おそらく生存のためのスキルである。好奇心が弱く、探検に乗り出せなかった祖先たちはきっと、さらなる食糧や快適な気候、その他さまざまなものを求めて隣の山脈の様子をうかがっていた人々ほど長生きはできなかっただろう
ジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)

出典/「ビジネスインサイダー」(2014年)、和訳は『ジェフ・ベゾスの生声』(文響社)より。

いち早く、人生100年時代の戦略を説いた経営学教授のリンダ・グラットンは、社会へ出る前に学んだ知識に賞味期限があることを見抜いた。ただし、新たに知識を得るだけではダメで、それを実践しなければ役立たない。

大学で物理学と経済学を修めたイーロン・マスクはスペースX社を起業する際、エンジニアリングの知識を持ち合わせていなかった。そこでゼロからロケット科学を学んだ後、自らCTO(最高技術責任者)として陣頭指揮を執ることでスキルを獲得したと言える。

「好奇心が弱い種は滅びてしまう」とまで言い切るのはジェフ・ベゾス。異なる環境に飛び込むには、思い切ったジャンプが必要だというメッセージだろう。

REASON 3:「なくなる仕事」と、「生まれる仕事」があるから

「2027年までに6,900万件の雇用が創出され、8,300万件の雇用が失われる」という予測が今年5月の世界経済フォーラムで発表された。つまり全世界で1,400万件の雇用が減ってしまうという。大きな理由は、仕事の自動化がAIの発達とデジタル化の加速によって進むこと。

こうした「技術的失業」(上段)に対抗するため、重要性が増すスキル(下段)を身につける必要がある。「誰もが身につけたいものとして、重要になるのがテクノロジーやAI分野のスキル(3位、6位、7位)。対極的に、クリエイティブ思考やサービス志向といった“人間ならではのスキル”がより求められることにも注目です」

REASON 4:働き方が多様化していくから。

コロナ禍で普及したリモートワークは、働き方の多様化を加速させた。それ以前からも、会社側の理由で生じる雇用調整と、働き手が働き方の自由度を高めたいという希望が重なり「ワークシェアリング」が検討されてきた。これは「1人が担当していた仕事を複数人で分担し、1人あたりの労働時間を減らしながら、新たな雇用を生み出す」という仕組み。

その結果、週休3日制を試験的に導入する企業や、副業を解禁する企業などが増えている。個人が複数の職場で活躍できるようになったことで、身につけたスキルを別の職場で発揮したり、新たな仕事で異なるスキルを身につけたりすることが可能に。一つの職場だけでスキルを発揮する時代は終わるかもしれない。

REASON 5:働き続けることが応援されるから

これまで社会の前提だった「教育」「就労」「老後」という3ステージ制が揺らいでいる。就労の中心を担う「生産年齢人口」とは、15歳から64歳の人口(経済協力開発機構の定義)。2056年頃に総人口が1億人を下回る日本は、さらにこの層がゴッソリいなくなる。

移民を増やす提言があるものの、円安と低賃金の日本に海外から労働力は来てくれるのかわからない。「それならば、リタイア生活を送るよりも、社会との接点を保つ意味で無理なく働こう!」と仕事に前向きな時代に向かう可能性もある。しかし、これまで身につけたスキルが通用するかは別の話。リスキリングで、何度でも新しいスタートを切りたい。

なぜ、今リスキリングするべきなのか?

21世紀になって20年以上。今、世の中が激しく動いている。上に挙げた予測では、大きく3つの変化を示した。

まず「人生」。寿命が延びて、健康に活動できる期間も長くなる。当然ながら、稼がなくてはいけない。次に「仕事」。技術があっという間に進んで、かつての常識や方法が通用しなくなる。そんな個人や仕事の変化を反映して、最後に「社会」そのものが変わる。

欧米などではすでに「技術的失業」が社会問題だと語るのは、リスキリングに関する本を執筆し、その分野の最先端に詳しい後藤宗明さん。

「テクノロジーが人間の労働を自動化することで、単純作業や調整といった仕事がなくなる。その人々が企画や交渉などの新しい業務に移れるよう、組織が従業員のスキルをアップデートする活動が本来のリスキリングです」

リスキリングの定義は「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」。しかしながら、日本では学ぶことがゴールになって「学びっぱなし」で終わる人が多いという。

「“学び直し”という訳を当てたのが誤解の原因です。それでは知識を得るだけになってしまう。時代が求める仕事へ就くためには、実践を通じて獲得された“特定のタスクを実行できる能力”が必要です」

それこそ激動の世の中にあって、これから身につけるべきもの。つまりスキルとは「経験や訓練で得られる知識や技能」のことだ。

これまでの生涯学習とは違って「生き残るための危機感からリスキリングは取り組まれる」と後藤さん。

「デジタル分野のスキルを今から獲得しないと、新たな仕事には就けないでしょう。これから新しく生まれる仕事の準備プロセスだと考えてください。例えば、十数年前はユーチューバー、昨年まで生成AIを駆使するプロンプトエンジニアという仕事はありませんでした」

若い世代だけの話ではない。現在、50代・60代のビジネスパーソンも「退職後に組織を離れ、雇われることなく自分のスキルで食べていく時代が来る」と後藤さんは予言する。

「世の中の多くの人は“学ぶことに苦手意識がある”と言われます。私自身もそうでしたが、40代前半で初めて転職活動した際にデジタル分野のスキルを身につけたことで、今の立場があります。自分の人生をアップグレードするため、やらなきゃいけないからやる。そんな“健全な危機意識”から始めてほしいです」

学びだけではなく、その先の実践も掛け合わせて進めるのがリスキリング。ブルータス「大人になっても学びたい!」で紹介しているスキルを第一歩とし、新しい時代を切り開いてはどうだろう。