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滝を愛してやまない、峯崎ノリテルとコウ ノリの対話「日常のあっち側へ」

滝を愛するあまり滝のZineを制作したアートディレクターの峯崎ノリテルさんと、峯崎さんに導かれて滝の世界を知ったサンシャインジュース代表のコウ ノリさんに聞いた、素晴らしき滝の世界のこと。


*滝への入水はすべて自己責任です。水源を含む事前の天気チェックはもちろん、倒木の有無や、滝壺の水深などをしっかり確認しましょう。特に雨後は水量も多く注意が必要。必ず複数人で交互に入って安全を確保すること。

photo: Takako Noel / text: Takuro Watanabe

とりあえず、滝に打たれに行こっか

やどりき水源林を歩く人々
神奈川県足柄下郡の中津川源流域にある滝を目指す。ワクワク。

峯崎さんが暮らす神奈川県足柄下郡の山間の町・寄(やどりき)に集まったのは、峯崎さんの滝仲間たち。コウ ノリさんと撮影をしてくれたフォトグラファーのタカコ・ノエルさん、そして峯崎さんの友人2人が水着姿でやって来た。

向かったのは峯崎さん宅から車で10分ほどのやどりき水源林。中津川源流域に広がる水源の森だ。峯崎さんにとってはホーム的な滝スポットなのだそう。

「この間、まとまった雨が降ったから水量があると思うんだよね~」なんて峯崎さんが話をしながら河原を歩いていると目の前に高低差のある滝が現れる。落差は20mほど。4段になって流れ落ちる流身が美しい、野生的な滝だ。メインの滝壺に辿り着くにはちょっとしたキャニオニングが必要となるアクセスもアドベンチャー感があってとてもいい。

滝に入ると一瞬でスイッチが切り替わる

滝の落ち口を眺める人々
まずは皆で滝の姿をじっくり観察して水の流れを確認。滝の落ち口を眺める皆さんの表情は真剣そのもの!

落口(てっぺん部分)を見上げると、切り立った岩の間から勢いよく水が空中に放り出されて散布された水が霧となり、マイナスイオン大量発生中。見ているだけで美しいし気持ちいいけれど、滝にはやはり打たれたいもの。この日の水温はおそらく10℃ほど。ちょっと冷たいかもな……と一瞬頭をよぎるけれど、その思いを断ち切って、いざ滝の中へ!

ドドドドドドドドドドドーーーーーーーーー!!

コウ ノリ(以下:コウ)

滝郷の滝、水量も強いしキンキンに冷たくて最高でした!

峯崎ノリテル(以下:峯崎)

みんなで入れたのが最高だったね。

コウ

峯崎さんはどうしてそんなに滝に夢中になったんですか?

峯崎

滝に行くようになるまでは友達と一緒に、川に流されるっていう遊びをしていたんだよね(笑)。体の力を抜いて川の上流から下流まで流れていくんだけど、これが気持ちいいんだよ。それで『すごいの見つけた!』みたいな感じでその友達が次は滝だって言って連れて行ってくれたんだけど、初めての滝が衝撃的に気持ちよかったんだよね。

コウ

川流れもやばそうですねえ(笑)。滝はダイレクトに自然のパワーがスコーン!と入ってくる感覚がありますよね。

峯崎

ノリくんによく瞑想の話を聞かせてもらうんだけど、滝にも瞑想と近い要素があるよね。あまりいろんなことを考えないで呼吸に集中するところとか、ちょっと似てるのかなと思ったりします。

コウ

瞑想は自分でゾーンしていくけど。滝に入ると一瞬で完全に世界が遮断されて強制的に“向こう側”にチューンしてくれる感覚がありますよね。

峯崎

前に一緒に滝に行った人が、本当に元気がなくてトボトボした感じだったのが、滝に打たれた後はもう生まれ変わったみたいな顔で出てきてさ。『ほんとによかった、ほんとによかった!』って連呼してたんだよね。あのビフォーアフターはすごかった。

滝に打たれる峰崎さん
峯崎さんの座禅スタイルは、まるで修行僧のよう。

コウ

ちょっと入るだけでもかなりのエネルギーを浴びますしね。一瞬でパチンッ!とスイッチが切り替わる感じですね。

峯崎

ちょっと怖いかな?ってぐらいの水の量の時は整い方がすごい。姿勢をよくして、うまく落下する水のパワーゾーンに入ることができた時の脳天からお尻に抜ける感じが最高だよね。

コウ

滝のライン取りは大事ですよね!滝に打たれている姿もいろいろスタイルが出ますよね。バンザイして手の平からパワーを受けたり、坐禅スタイルだと上半身をまっすぐ貫いてくれますし、落ちてくる水に頭の一部だけ当てるなんて人もいますよね。

滝は瞑想に通じるものがある

峯崎

よく一緒に滝に行く友達が、真冬に30分以上滝に入ってたっていうんで、どんな感じなの?って聞いたら、だんだん滝の音が聞こえなくなって、水滴が落ちる音だけになったらしんです。そして、しだいに自分自身が水滴になっちゃうっていうんだよね。

コウ

瞑想も超いい感じでいけると、1時間ぐらいがあっという間に過ぎていて、いつまでもこうしていたいみたいな感覚になる時があるんですけど、それに近いかもしれませんね。本当にうまくいった時は自分が液体みたいになるんですよ。流れ続けるただの物質みたいになって感覚もあまりなくなるんです。

峯崎

やっぱり滝と瞑想は通じるものがあるんだね。人の手が全く加わってない自然に近づいていく行為だよね。

コウ

シンプルですよね。動力もなく、ただ重力に従って落ちてくる水に打たれているだけですから。

峯崎

中国の山水画の画家はひたすら山を歩いてから描き始めるんだってさ。滝を描く時も、滝に行ってリラックスをして完全に自分をいい状態にしてから描くらしいよ。

渡邊卓郎(編集 以下:渡邊)

日本でも日本画には滝の姿がよく描かれますよね。神社でも、滝をご神体として祀っていたりする。だから白装束を着ての滝行とかが生まれたのだと思うんですけど、あの様式が一般人の滝の世界への入り口を狭めているとも思うんですよね。

峯崎

そうそう。カジュアルな滝カルチャーがあるのかを知りたくて調べてみたんだけど、全然ないみたいだったから自分でZineを作ったんです。滝は難しいものじゃないからね。今日もいっぱい笑ったけど、楽しい感じも最高だよね。滝に打たれている時は普段見ることができない表情が見られるから(笑)。

コウ

そこは僕も好きなポイントですね。滝を前にして、バカになってみたり、キラキラしてる感じ。滝に打たれていると叫んで動物になっちゃう感じとかね。滝に入る時に無言でおもむろに服を脱いで、よし行くか、みたいな雰囲気を醸し出している感じもいい(笑)。

コウ

滝は整う感覚になるのが物凄く早いんですよね。すぐにそっちに行きます!みたいな(笑)。心身を整える方法にはいろんなものがありますが“あっち側”に行くのが一番早いんじゃないですかね。

渡邊

滝以外のものだと整うのにはまあまあ時間がかかりますからね。サウナだと温冷交代浴を何度も繰り返した先に待っている感覚に、滝だとすぐに辿り着きますよね。

峯崎

なんか今の若い子とかって、“あっち側”に行きたい欲求とか整いたい欲求が増えている気がします。いつも自分自身の中に、何かしらのズレを感じている人が多いのかもしれませんね。調整が必要な世の中なのかなあ。

コウ

“あっち側”に行く人が増えたら、いい世の中になりそうですね。

峯崎

そのためにも滝はおすすめできることだよね。こうしなきゃいけない、こう感じなきゃいけないとかもない。水が落ちてきたら流れていくだけ。日常生活と“あっち側”、意識と無意識を行ったり来たりするのには最適な行為なのかもしれないね。

峯崎さん宅の柱に描かれた正しい滝の打たれ方のイラスト
峯崎さん宅の柱に描かれた正しい滝の打たれ方のイラスト。「前屈みになるのもマッサージ的にはいいんですけど、脳天からまっすぐ落水を受けることで水が体の中心を通るんですよね」と峯崎さん。