愛って、すべてを捨てて逃げてもいい
僕は、理屈じゃなく、すべてを捨てて、愛のために現実から逃げてしまおうとする人たちの儚さに、どこか憧れがあるんです。
例えば、イ・チャンドン監督の『オアシス』で、脳性麻痺の彼女をおぶった主人公の目の前で終電が過ぎ去ってしまい、気づくと彼女が健常者になっているシーン。あそこは2人が現実から逃げ切れなかったように見えて、蛍光灯に照らされて夢の中に入っていく演出に感動しました。
廣木隆一監督の『ヴァイブレータ』も、嘘みたいなトラックの中だけが2人の逃避場所ですし、『アイデン&ティティ』も好きなことをやっていく苦しさ、そうすることで襲ってくる現実、それでも続ける人たちへの愛が描かれている。監督・田口トモロヲさんから全若者へのラブレターのように感じます。
どれも最終的には、現実が待ち構えている。終わりがあるのも、愛の形ですからね。登場人物たちのように、逃げる、という選択肢がみんな常にあっていい気がしているんですよね。
僕が好きな監督には、そこにいる人をただ受け入れるという共通した視点があるなと。石井裕也監督の『愛にイナズマ』の、僕が長男役の池松壮亮さんの鼻血に触れるという演出は、自分からはやらないだろうなと思った場面なんです。「手当て」という言葉があるように、人に触れるという不思議な力や、一歩踏み出して触れようという石井さんの愛情深さを改めて感じる作品です。