谷口猛、鈴木健太ら映像制作者が告白する、本当に怖い映画

text & edit: Shigeo Kanno

監督や脚本家ら映像作品の作り手が、本当に怖いと感じるホラー作品を告白。特に怖さを感じるポイントを、自らの言葉でしたためた。

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倫理を超えた人間の野望が怖い

『ナイトクローラー』

監督:ダン・ギルロイ/米/2014年
ある事故現場で目撃したことを機にパパラッチを志したルイス。しかし凄惨な映像を追い求めるあまり、一線を越えてしまう。

成功のために良心を捨てた主人公・ルイスが、僕たちに問う。「倫理を無視した代償は?」。欲望を剥き出しにする衝撃のブラック・サクセスストーリーに、映像を撮り、世に出す者として、少し共感する自分が怖い。正常では生き残れない社会の現実が、僕たちを戦慄させる。倫理を超えた成功の代償に何を見出すのか。

キレたら何をするかわからない竹中直人演じる男が怖い

『GONIN』

監督:石井隆/日/1995年
バブル崩壊で人生の瀬戸際に立たされた5人の男が暴力団と交戦状態に。竹中直人はリストラで解雇された中年サラリーマンを演じる。

僕の怖いのは、禍々しいモンスターや暗澹(あんたん)たる世界観ではなく、日常に紛れ込んだ“異物”だ。良くないもの/壊れたものが、無害を装いなにげなく存在しているさま。つつがない実生活のために抑圧された負のエネルギーは高濃度に圧縮され、今にも自爆しそうな緊張感を醸し出す。なるべく近くにいたくない。離れたい。怖い。

狭く暗い階段が怖い

『風の中の牝雞』

監督:小津安二郎/日/1948年
終戦後の東京。貧しい生活の中で夫の復員を待つ妻は、病気の子供を抱え一度だけ売春をする。それが家族を苦しめることに。

小津安二郎作品といえば『お早よう』や『秋刀魚の味』など簡単に言ってしまうならばハートフルな作品が印象的だが本作は異色である。戦争における生活の貧しさと悲しみによって終始漂う不穏感、小津にとって象徴的な家族の温かい空間としての家が、──とりわけ階段が──最も恐ろしい、家族も手を差し伸べない狭く暗い恐怖の空間となる。

感情が抑制された未来の地下世界が怖い

『THX 1138』

監督:ジョージ・ルーカス/米/1971年
地下シェルターでコンピューターに管理される人類。義務づけられた精神安定剤の服用をやめた2人が波紋をもたらす。

際限なく進化する管理社会の行き着く先は、もはやなぜ人々を管理しなければいけないのか、そんな疑問すらも消え失せている。AIやプラットフォームに大量の個人データが吸われる現代は、すでに『THX 1138』の世界が始まっているのかもしれない。非合理であることや自我を持つことを否定される世界は怖い。