
はやせやすひろ、福田安佐子らホラー関係者が告白する、本当に怖いもの
自分を今の仕事に導いた津山弁のおどろおどろしさが怖い
小説「ぼっけえ、きょうてえ」
著:岩井志麻子/1999年
『ぼっけえ、きょうてえ』収録/岡山の遊郭で醜い女郎が語る身の上話は血と汚辱まみれの地獄道。日本ホラー小説大賞などを受賞。
「ぼっけえ、きょうてえ」とは「すごい、怖い」という意。私が生まれ育った岡山県津山市が作品の舞台で、津山弁が物語を紡ぐ。読後自分たちが使っている方言をとにかく恐ろしく感じた。現在私は人を恐怖させる仕事に東京で就いた。扱う言葉は東京の言葉ではなく、いまだ津山弁。今日も「ぼっけえ、きょうてえ」が私の中で脈を打つ。
霊が日常に潜んでいることを目の当たりにしてしまうのが怖い
映画『降霊』
監督:黒沢清/日/1999年
マーク・マクシェーンの原作を脚色。少女誘拐事件に便乗し、名声を得ようとした霊能力を持つ主婦とその夫の破滅を描いたホラー。
昔、心霊体験のある50人を集めたテレビ番組で「本物の霊の出方に近いホラー作品は?」との質問があり、ほぼ全員が挙げたのがこの作品だった。それだけでゾクッとしたのを覚えている。『降霊』に出る霊は、日常と地続きの光景の中に入り込んでくる。「出るぞ」という効果音もなく静かに現れる。たぶん、本物がそうであるように。
のちの惨劇を引き起こす人間の妖怪に対する無知が怖い
妖怪「ケドガキのバケモン」
長崎県福江島に伝承される妖怪。父親が我が子の躾のために放った一言がケドガキのバケモンを呼び寄せ、子供が成人した頃に、大きな悲劇が起こってしまう。
「悪い子はお化けが食べに来るぞ」。“お化け”が確実に存在しないことを知ったうえで安全圏から子供を脅す定番文句。だが家の外の暗闇から声がする、「ならばその子は俺がもらう」と。親は慌てて「こいつはまだ小さい。一人前になったらお前にやる」とごまかすが、子が立派な若者に成長した頃、約束通り、こいつは来た。
老人の幽霊なのに的確な攻撃をしまだ性欲がご健在な感じも怖い
映画『哭悲/THE SADNESS』のおばあちゃんゾンビ
監督:ロブ・ジャバズ/台/2021年
台湾で人間の凶暴性を助長するウイルスが蔓延。感染者たちは罪悪感に涙を流しながらも、衝動を抑えられず凶行に走る。
反撃を一瞬躊躇(ちゅうちょ)させる「見た目」、それに反して、理性や良心がかけらでも残っていたら絶対にしない攻撃をしてくる「内面」。ゾンビの基本でもある「ギャップ」を今までになかったほどの振れ幅で体現している。さらには、恋愛対象外の人から剥き出しの欲望をぶつけられると怖い、という日常に潜む脅威も盛り込まれていて、さすがの内容。