呪みちる、押切蓮介ら漫画家が告白する、本当に怖い漫画

text&edit: Ryota Mukai

悪夢のようなビジュアルを絵で表現するホラー漫画。読者に恐怖を与える漫画家自身が、頭から離れずトラウマになっている本当に怖い作品を告白。

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暴力を傍観する人間性の欠如が怖い

「蟲笛」

著:円山みやこ/1998年『蟲笛』収録
河原で男3人に暴行を受けた少女は知らない部屋で目覚める。実際に起きた事件を、被害者の目線で描いた短編。

「息子が拉致してきた若い女性は毎日ひどい暴力を受けている。殴られ蹴られ焼かれて日に日に恐ろしい姿になっていく。両親は女性に対して願う。私たちの前から消えてくれと。なぜそんな目に遭いながら逃げ出さないのかと腹立たしさすら感じている。暴力にすくんで動けない女性に。この両親の完全な人間性の欠如に心から恐怖しました」

信じていた世界が、崩壊していく過程が怖い

「灰になる少年」

著:ジョージ秋山/1997年『灰になる少年』収録
“幸せに暮らせるのも今のうちだ”。見知らぬ男にそう告げられた少年が首なし殺人事件に遭遇し……。

「子供にとって安心と幸福の拠(よ)りどころであるはずの家と両親。だがその両親に恐ろしい秘密があると知ってしまったら?その瞬間にそれまでの風景が一変、信じていた世界が足元から崩壊し少年は地獄へ叩き落とされる。疑惑と混乱、さらに自分自身にも残酷な運命が待ち受けていると知ってしまったら……。世界が、自分が失われていく恐怖!」

閉所が怖い

「耐えがたい迷路」

著:伊藤潤二/1990年『伊藤潤二コレクション 49』収録
登山に向かった小夜子と法子だったが、道に迷い、とある宗教団体の修行場に入り込んでしまう。

「自分の閉所嫌いのきっかけとなった作品の一つです。即身仏になることが一番恐ろしいと思っている自分にこの作品はダブルパンチで僕を慄(おのの)かせてきます。ほかにも伊藤先生の作品で『阿彌殻断層の怪』という読み切りもあるのですがこれも本当に恐ろしい漫画です。伊藤先生は人間の弱みをチクチクと攻め立ててくるのがとてもうまい方です!」

残忍な殺人を読み聞かせる父親の歪みが怖い

「黒い絵本」

著:楳図かずお/1986年『神の左手悪魔の右手』収録
病気の少女ももは、冷蔵庫に入った女性の生首を発見し、父親が殺人鬼であることに気がつく。

「寝たきり少女の唯一の楽しみはお父さんが読み聞かせてくれるお手製の絵本。でもその内容は、殺人鬼であるお父さんの残忍な犯行を描いたもので……。巨匠がスプラッターに挑んだ作品として有名だけど、物語の発想からしてすごい。少女が置かれた異常な状況、父親の歪んだキャラ、不気味な絵本と、“怖い”が大渋滞です」