メロディは私たちを様々な場所へ連れていってくれる
アメリカン・ポップミュージック界の重要人物、ヴァン・ダイク・パークスが最後の来日公演を開催。ビーチ・ボーイズの幻のアルバム『スマイル』への参加、ランディ・ニューマン、ライ・クーダー、リトル・フィートらとの共作、日本では1972年のはっぴいえんどのLAレコーディングへの参加でもその名を知られる。クラシック音楽から、カリビアン、ブラックミュージックなど様々な要素を感じさせる彼のピアノ演奏の背景にあるのは、アメリカという国家、20世紀のポップス、そして音楽そのものの成り立ちについての深い洞察だった。

優れた音楽は人と人を結びつける
「1972年にはっぴいえんどがLAにやってきた。最初はなんでいきなり来たんだろうと(笑)。一緒に作ったのは『さよならアメリカ さよならニッポン』という曲。原爆の話はここではやめて、その先の話をしよう、ハッピーな曲を作ろうと(笑)。そして、セッションでは全員の息が合う瞬間が生まれた。彼らは太平洋を越えて、つながりを求めてやってきた。そこに胸を打たれました」
今回の公演はヴァン・ダイクのピアノと歌に、マンドリンとベースのみが加わるシンプルなトリオ編成。彼が奏でるピアノのハーモニーの多様な魅力がダイレクトに伝わった。
「幼い頃に、シューマン、フーゴ・ヴォルフ、シューベルトといった19世紀の音楽家たちの作品から、優れた音楽は人と人を結びつけるということを学びました。『ディスカヴァー・アメリカ』というアルバムでカリプソを取り入れたのは、アメリカ南部で1人の白人の神父と28人の黒人が乗ったバスを目撃して、そこにアメリカの本質を見る思いをしたから。様々な歴史や出来事が折り重なって、自分の音楽のハーモニーが生まれているんです」
御年82歳。「もう一枚のアルバムを通して聴く時代ではないけれど」と、現代のシーンにも気を配りつつ、創作意欲は尽きない。
「自分の知っているアメリカは崩壊した。気候変動は世の中に様々な影響を与えている。友人でもあったフォークシンガー、フィル・オクスの言葉を借りれば、こうした醜い時代に対する真の対抗とは美だと思う。美しいものを作ることによって、人々が大事なことを考えるきっかけを作ること。それが、音楽家である自分の使命だと思っています」
