動き続けるアメリカ社会
そのリアルを伝える音楽
大和田俊之
アメリカの音楽を聴いていると、政治や社会と一緒くたになっていると実感します。例えば、共和党支持者とカントリー音楽のリスナーが多いテネシー州出身のテイラー・スウィフトは、長らく政治的立場の表明をあえて避けてきた。
けれど、マイノリティの存在を脅かすドナルド・トランプの出現に抗議し、民主党支持を表明したんです。
渡辺志保
ロサンゼルスに目を向けると、様々な価値観や文化を超えた交流が音楽に表れています。例えばオッド・フューチャーというヒップホップ集団は、スケートボードもパンクロックのカルチャーも取り入れる従来にないスタイルで登場し、メインストリームになりました。
メンバーに同性愛者のシドやフランク・オーシャンがいたことも、その環境を体現しています。
大和田
ブロンクスからは、中南米がルーツの女性ラッパー、カーディ・Bが彗星のごとく現れました。
渡辺
ニューヨークではもともとラテンアメリカやヒスパニックのコミュニティの存在感も大きい。そんな中、彼女は地元感をあらわにし、自らの底辺の部分もリアルに表現したことで人気が出ました。
ルーツ的には同じような出自のジェニファー・ロペスが、ダンサーや俳優として洗練されて人気が出たのと対照的です。
大和田
彼女は男性ラッパーにフックアップされたわけでなく、独力でのし上がったことも重要ですね。
渡辺
シカゴには、アフリカン・アメリカンのルーツを真摯に音楽に落とし込むシンガーのジャミラ・ウッズや、ラディカルに人種差別の撤廃を訴えるラッパーのノーネームという女性アーティストがいます。
ノーネームは、ブラック・ライブズ・マター運動でも存在感を強めた存在です。
大和田
同じくシカゴのチャンス・ザ・ラッパーは、クオリティの高い作品を無料で配信して、ライブとグッズで最終的な収益を得るという方法で、従来の音楽シーンのあり方を変えてしまいました。
渡辺
音楽の聴き方自体も、オンライン中心に変わりましたね。
大和田
アトランタから生まれたトラップミュージックや、アメリカのヒット曲のサウンドとも近いK-POPの日本での流行を見ていると、音楽配信の普及もあって、今は日本からもアメリカの音楽に興味を持ちやすい時代と感じます。
渡辺
そういったサウンドを楽しむ一方で、アメリカの多様さと社会の動きに興味を持ち、照らし合わせるようにしてアメリカの音楽を聴き始めるのもいいと思います。