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私の忘れたくない一行。夏目知幸、川谷絵音、吉澤嘉代子、valkneeが選ぶ「歌詞」

歌詞は、最も身近な詩だ。歌謡曲からポップス、ヒップホップのリリックまで。メロディやサウンドと一緒に楽しむものだが、言葉そのものもリズムを持っている。敢えて言葉だけを切り取って、定型詩や散文詩と同じように豊かな表現を細部まで味わいたい。


初出:BRUTUS No.1008「一行だけで。」(2024年5月15日発売)

夏目知幸

忘れたくない一行

気の合う友達ってたくさんいるのさ 今は気付かないだけ

RCサクセション「わかってもらえるさ」(1976年)作詞・忌野清志郎

気持ちがそのまま曲になることが稀にある。気持ちって形がないし型がないから、じかで曲になるとギリギリ曲として成り立っている感じというか、妙なバランスやアンサンブルを持つ。でもシレッと「どうも」って顔している。この曲もそう。まだわかってもらえていない主人公が歌うのは希望のみ。種をまき続ける覚悟が胸を打つ。

忘れたくない、自身の一行

ダンスはいつでも味方 分かんないことは置いときな

Summer Eye「失敗」より。

川谷絵音

忘れたくない一行

今日も生きたね 望んでも 望まなくても

THE NOVEMBERS「今日も生きたね」(2014年)作詞・小林祐介

「今日も生きたね」という一言を自分に言うだけで、何もなかった日も最悪な日もそれで十分な気がする。この一文で、生きるという最低限の行為が実は尊いことなのだと再確認できるすごい歌詞。そしてその後にくる「望んでも 望まなくても」で浮かび上がる“命”の様々な側面。このたった17文字の美しさに僕は夢中です。

忘れたくない、自身の一行

私、間違うことでしか人生の針を 正しくは使えないの

ゲスの極み乙女「人生の針」より。

吉澤嘉代子

忘れたくない一行

何故ならいつも言葉は嘘を孕んでいる

椎名林檎「ありあまる富」(2009年)作詞・椎名林檎

言葉の力を信じているからこそ、その強さに打ちのめされてしまう時があります。そんなさなかに優しく響いた歌詞です。これまでずっと、言葉は記号で永遠だと思っていました。でも記号だからこそ嘘も本当も含まれてしまうのだなと。人を傷つける言葉の裏にはそれだけじゃない人間の複雑な感情があるという事実に救われました。

忘れたくない、自身の一行

鏡に映った 誰でもない私を 今日はまだ 心から 愛せなくても 許せなくても 私がいちばん 抱きしめたいの

吉澤嘉代子「抱きしめたいの」より。

valknee

忘れたくない一行

毎週末の金土の テレビドラマの中に後ろ姿 見つけられなかった仲間たちのため

RHYMESTER「B−BOYイズム」(1998年)作詞・S.Sasaki、D.Sakama

テレビ・漫画・雑誌、なにを見ても共感できる登場人物がいない。人とそりが合わない。怒りと悲しみが交互に押し寄せる。それらを表現する言葉も方法もまだ持っておらず、自分って一体何なん?と思っていた頃に出会いました。同じ感覚の人がいるのかも、という喜び。今は自分もそんな「うちら」に向けた歌詞を書いています。

忘れたくない、自身の一行

ボロボロになって鍵垢にシュッ

valknee「DEVIL IN MY HEAD」より。