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ナイジェル・ケーボンが語る。歴史と伝統に裏づけされた「ツイード」の魅力

英国のトラッドな生地として知られるツイード。歴史と伝統に裏づけされたこの生地は、なぜ、現代でも愛されるのか?イギリスで生まれ育った生粋の英国人デザイナーのナイジェル・ケーボンが、ツイードの魅力について語ってくれた。


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photo: Aiko Yanagida / text: Maki Sekine / edit: Shigeo Kanno

「僕にとってツイードとは〈ハリスツイード〉。正直言ってそれ以外には興味がないんだ」と断言するナイジェル・ケーボン。彼にとってツイードは幼い頃から慣れ親しんだノスタルジックな生地であり、デザイナーとしてのクリエイションにも欠かせない要素だ。

「祖父も父も〈ハリスツイード〉のジャケットを愛していたし、僕もそれを着てサンデースクールに出かけていた。幼い頃、父がツイードジャケットを着せてくれた記憶は大切な思い出として残っているよ。僕は〈ハリスツイード〉とともに育ち、それを身に着けた先人たちの歴史やエヴェレスト挑戦といった物語を、服作りのインスピレーションとしてきたんだ」

若きナイジェル青年が〈ハリスツイード〉のお膝元、スコットランド・ストーノウェイを初めて訪れたのは1973年。

「僕がまだ23、24歳のとき。ツイードへの興味が高まって、北イングランドから600マイルもの道のりを車やフェリーを乗り継いで旅をしたよ。〈ハリスツイード〉社やクラフター(職工)たちを訪ね、そのすべてを学んだ。ストーノウェイにはこれまで4、5回行ったかな。何度もその作業風景を見たけれど、そのたびに手織りの素晴らしさに魅せられるし、とても特別な織物だと感じる」

そして同年、その訪問ののち、彼らの生地でスリーピーススーツを作り始めた。

「その後ビジネス展開するようになり、もう50年もの付き合いだ。仕事のパートナーである日本人たちが愛していたことも〈ハリスツイード〉で服作りをするきっかけの一つだったんだよ」

かつての登山家たちのフィロソフィを追って

「1924年にジョージ・マロリーが〈ハリスツイード〉を着てエヴェレストに挑んだ事実は、僕の大きなインスピレーション源になった。さらにエドモンド・ヒラリー卿(1953年に世界初のエヴェレスト登頂を遂げた人物)もエヴェレスト低地では〈ハリスツイード〉を身に着けていたんだ。過去の、とりわけ1920年代のクライマーたちはツイードジャケットをとても紳士的に身に着けていて、その美学を僕は踏襲している。彼らの存在がなかったら、ここまで興味が湧かなかったとも思う」

そうしてナイジェルは様々なツイードジャケットを生み出してきた。ヒラリー卿のエヴェレスト世界初登頂50周年に敬意を示したコレクション、さらに写真で着用しているのは前述のマロリーの名を冠したシリーズ。偉大な登山家から着想したこのジャケットは、同じくエヴェレスト登頂に用いられたという、ナイジェルの別のお気に入りであるベンタイルコットン生地が、ショルダーとエルボーパッチに配されている。

「僕にはちょっと大きいんだけど、それでも似合うよ。オーバーサイズを着るのが好きなんだ」とスポーツウェアの上にさらりと羽織ってみせる。意外な組み合わせだが、それがサマになってしまうのが流石だ。

「かつて僕の体重が100㎏あった頃はツイードをよく着ていたよ。2003年から2013年頃まで。快適で暖かくて、とても満たされた気分になれた。でも今は70㎏、当時から6サイズも落ちたからどれも大きすぎるし、それに好みも変化してもっぱらアメリカンやスポーツテイストに。私服としては少し遠ざかっていて、初めて作ったスリーピースも友人に譲ってしまった。これまでにない全く新しい〈ハリスツイード〉を作りたいとは、ずっと思っているけれどね」

最後に、英国人にとってツイードとは何だろう。

「1920〜50年代は誰しものワードローブにあった、まさに英国のトラディション。その中でも〈ハリスツイード〉は間違いなくナンバーワンだった。スマートでエレガント、纏(まと)う人を豊かに見せ、紳士的である。今はあまり若者が身に着ける生地ではないけれど、いまだにパブリックスクール等の制服にも使われることが多いのは、ツイードがオールドスタイルや伝統を喚起させる存在だから。最近では日本の方がツイード人気は高いと感じているけど、それはこういった感覚が日本人にも伝わっているからだろうね」