ゆらゆら漂う姿に没入したい。飼育力もクラゲ愛も世界一
水の流れに抗(あらが)いもせず、ふわふわ浮かぶ姿から目が離せない。「クラゲがウチのアイドル」という水族館も増える中、誰もが認める世界一のクラゲ聖地は、約80種を展示する〈鶴岡市立加茂水族館〉。日本海を望む庄内浜にあり、海外からもファンや研究者が訪れる。
館内の〈クラネタリウム〉では、一筆書き状の通路に沿って国内外のクラゲを眺められる。優美なユウレイクラゲや可愛いキャノンボールジェリーにうっとりした後は、飼育員による学びの空間へ。手書きの解説板で「クラゲの体はゼラチン質。心臓も脳も耳もなく神経に従って生きている」ことを知り、「名前の由来、“暗気”説」「『古事記』『枕草子』にも登場」という豆知識を得る。
1日3回のミニ講座では、「ミズクラゲは無性生殖で増えるポリプ世代と、有性生殖で増えるクラゲ世代、2つの世代を繰り返しながら繁殖する」という不思議な生態を学び、年間600万円のエサ代をクラゲバッジのガチャなどで賄う発想に感服!
クラゲ飼育の発展のため設備も知識もすべて公開
大水槽のミズクラゲを眺めた後は、日々の飼育を見学できるバックヤードツアーにも参加したい。例えば100種以上のクラゲは、温度調節した新鮮な海水を掛け流しにして飼育されている。使われているのは、1999年に現館長の奥泉和也さんが考案したクラゲ専用水槽の進化版だ。
当時、顕微鏡を買う資金さえなかったが、クラゲの命綱である水流に特化した水槽がどうしても必要、と自力で開発。設計図の特許を取らず無償公開し、国内外の水族館や研究機関と共存共栄することを決意した。
ちなみに、クラゲ飼育員さんいわく「クラゲは、カンブリア紀から、ほぼ進化していない」そう。
「つまり彼らには、5億年もの時を生き抜くのに十分な捕食技能や生存能力が備わっている。その研究は生態系や海洋環境の問題を解くことにもつながります。ただ体の90%が水のため昔は、採集が難しかったようで、いまだに飼育法も生態も未知の部分が多い。なのでウチで繁殖させたクラゲを大学や研究機関に提供し、役立ててもらっています。医療やロボット工学へも応用されているんですよ」
クラゲ展示を始めて27年目。一途なクラゲ愛は、館だけでなく世界中のクラゲに注がれている。