今や、白いTシャツ一つとっても、提案するスタイルやディテールの違いであらゆる個性を持ったものがあまたある。その起源はヨーロッパが有力だが、20世紀に入りアメリカで白Tの原型となるものが下着として売り出され、第一次世界大戦時にはアメリカ海軍の公式下着となり、第二次世界大戦後には帰還兵が着ているのを見た大衆に広まった、という大まかな流れが語られる。兵士にとっては防塵、包帯、時に白旗の役割も担っていたという説もあり、長く濃い道のりを経て現在私たちの手元にある。
その白Tがクールなアイテムとなったのは、1950年代にハリウッド俳優たちが作中で着用したことに起因する。映画『欲望という名の電車』のマーロン・ブランドは、従来にない野性的な演技とともに、格好いいとされる以前の白Tスタイルで現れ、先例、常識を破る不良の精神を白Tに付随させた。“不良”を、ここでは「周囲の状況に関係なく己の道を進もうとすること」と定義すれば、以降、不良の主人公が白Tを装うアメリカ映画がいくつかある。
ジョニー・デップ演じる不良青年のウェイド・ウォーカーと裕福なお嬢様の恋物語『クライ・ベイビー』(90年)。清く生きよと若者に命じる大人たちに準じない彼は、白Tにライダースジャケットという50年代のロカビリースタイルだ。ジョン・トラボルタ演じる不良グループのリーダー、ダニー・ズーコが品行方正な女子生徒に恋する『グリース』(78年)もまた、基本は同じスタイル。ほかのキャラクターも白Tを着てはいるが、性的興味しかない彼らとは反対に、純粋に恋をしたいダニーの軽薄さのない表情と白Tの相性はひときわ目立って映る(思春期のただ中、仲間の前では取り繕うが)。そして、マシュー・ブロデリック演じる高校生のフェリス・ビューラーが学校をサボって遊びまくる一日を描いた『フェリスはある朝突然に』(86年)。人生を楽しくしてくれるのは、組織や社会や他人ではなく自分次第と、己の信条に一路邁進(まいしん)する彼は白Tにニットベストである。
信念は堂々たる面容と佇まいを築き、至極シンプルな白T姿でも輝きを放つ。さまになるか、あるいは平凡に落ち着くかは、着る者の生きざま次第といえるのが白Tの深さだ。