「自分とそう年の変わらない人たちがこんなにも自由に面白いものを作っているのか!と衝撃を受けました」と語るのは女優の河合優実。
テレビドラマ『不適切にもほどがある!』の純子役で一気に世間の注目を集め、今年は映画『あんのこと』で主演、劇場アニメ『ルックバック』でも声優を務める彼女の新たな主演映画は、山中瑶子の監督作『ナミビアの砂漠』。
1997年生まれという若い山中の長編第2作であり商業映画としては第1作にあたる『ナミビア~』は、今年(2024年)のカンヌ国際映画祭にて国際映画批評家連盟賞を受賞し、世界的に注目を集めている。
河合と山中との出会いは6年前。山中が弱冠19歳の時に撮影した第一作『あみこ』がPFF2017アワードに入選。翌年、20歳でベルリン国際映画祭に史上最年少で招待される。その『あみこ』を当時高校生だった河合は劇場で見て、上記のように衝撃を受けたのだった。
そして再度、山中のトーク付きの上映会に行き、河合は手紙を山中に手渡した。その手紙には「演技がしたい。いつかキャスティングに入れてください」と書いてあったそう。
それから6年。その間に山中監督はいくつかの短編とテレビドラマを手掛け、河合優実は女優を目指して芸能事務所に入り、前述のように注目を集める。今回の『ナミビア~』は山中が河合を指名して企画が始まった。山中がそのプロセスを語る。
「もともとは全く別の原作ものの企画だったんです。でも、その脚本を仕上げる際に煮詰まってしまい、そこから脱出しようと無理やりインドに行ったら『もう降りよう』と思ったんです。そうしたらプロデューサーが『せっかく河合さんも待ってくれていたし、監督が作るものをみんな見たいからオリジナルでいいからやってみないか』と言ってくれて。
そこで河合さんや友達、スタッフからざっくばらんに話を聞いて、糸口を見つける作業をしました。最終的には15人分ぐらいのエピソードが反映されています。それもあってか、世代も国境も超える普遍性が生まれたのかもしれないですね」
『ナミビア~』は東京で暮らす21歳の女性カナが主人公。優しい恋人ホンダと同棲生活を送っていた彼女は自信家の映像クリエイターのハヤシに乗り換えて新生活を始めるが、次第に自身が追い詰められていくというストーリー。
しかし山中は『ナミビア~』のカナが今のZ世代の代表として捉えられることは好まない。
「Z世代のアイコニックなキャラクターを描くつもりはまったくなかったんです。それよりは、無気力だったりダメなところがある人間を魅力的に描きたかった」
元彼となったホンダが路上に突っ伏して泣き崩れるシーンや新しい彼となったハヤシと取っ組み合いのケンカをするシーンなど、ドキュメンタリー的で演出的でないインパクトのあるシーンが多々あるこの映画は、フレッシュでありながらもかつてのヌーヴェル・ヴァーグを思わせる作家映画的な「カメラ=万年筆」感がある。
「作家映画が好きですね。『ナミビア~』に関しては、ジャック・オディアールの『パリ13区』とショーン・ベイカーの『レッド・ロケット』から作る勇気をもらっていました。特に『レッド・ロケット』の主人公のだらしなさに。また『パリ13区』の主人公もすごく自分勝手ですよね。オディアールは70歳近くだったのにすごく若い映画で、『負けられないぞ!』と思いました」
山中は日本大学藝術学部の映画学科監督コースに入るもすぐに中退した経歴を持つ。
「授業の進捗が遅いところに不満がありました。卒業制作の映画の尺は30分なんです。映画館で興行できる映画の尺ではないし、4年も通って30分しか撮れないのはお金がもったいないと思って、母親にやめさせていただきたいがその分の学費は欲しいとお願いしました(笑)。そのお金で『あみこ』を作って、ベルリン映画祭に行ってから納得してもらって、退学できたんです」
しかし大学で学んだことで大事なものもあると山中。
「シナリオの先生が古厩智之(ふるまやともゆき)監督でした。古厩さんは学生が書くものをすごく信じている人なんです。『日本映画は半径5メートルぐらいのことばっかりで、社会的なものを描けていない』と言う人もいますが、古厩さんは『君たちは18歳で、まだ社会的なことを描けないと思うし、それより自分の半径5メートル以内のことで描きたいことを突き詰めた方がいい』と教えてくれて、それはすごくよかったですね。まずそれでいいんだと」
共に20代の監督と女優の見事な化学反応を見せた『ナミビア~』。河合は山中にこう期待する。
「絶対に変わらないでほしい部分もあるし、変化を恐れないでいましょうねとも言ってみたい。4つ上の山中さんもまだ27歳で、私と同じく時間がたっぷりあります。いろいろなことを勉強して、探求して、臆さずに試していくことに関しては、若さという要素は確実にアドバンテージだと客観的に思うので、時間が経ってそれぞれ変化した先のステージで出会えたら、更なる豊かな創作ができるのではないかなと思っています」
山中は作家映画の範疇にとらわれずに映画を作っていきたいという。
「ジャンルものもやってみたいんです。ノワールとかホラーとか。でも、あらかじめ決め事が多い企画とか、いろんな人がいろんなことを言ってくるようなものはできるだけ避けたいなと。柔軟で身軽な映画づくりをしていきたいですね」
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