まるでバンドのようなユニット名。それが注目のひとり写真家ユニット「System of Culture」。3月16日から4月14日まで浅草橋のparcelギャラリーにて個展を行い、同時にデビュー写真集も発売したSystem of Culture(以下S.o.Cと略)は、古典絵画や映画など様々なものをモチーフに、それを現代的に変容させたコンセプチュアルな写真群を発表する。
その考え抜かれたイメージの完成度もさることながら、写真集の中には写真制作の発想法がグラフィカルに記載され、まるで写真制作のアルゴリズムを明かすかのような方法論は斬新なものがある。つまり久々に突き抜けた頭デッカチ系の写真なのだ。
「写真家に嫌われるものを創りたい気持ちがある」と語るのはS.o.Cの小松利光。S.o.Cは当初3人組だったが、去年から小松が一人でやり続けている。S.o.Cの成り立ちをこう語る。
「始めたきっかけは、週末の夜に家の近くのファミレスに元相方と行って、延々と朝まで喋っていたことです。写真、アート、映画、最近のドラマの話をしていて、結局その時間が無駄だなと思って(笑)。延々喋っているだけではなく、何か創ろうということになったんですね。そこで何を創るかと考えて、写真だとシャッターを押すとすぐ撮れるから始めやすいし、写真をやろうと。そして早速次の日にIKEAに行って撮影に使うテーブルを買い、ホームセンターで突っ張り棒を買い、ビックカメラに行って紙のロールを買って、簡易的な撮影のセットを自分の部屋に組んだんです」
その後もう一人メンバーが加わり3人組となる。
「3人でずっと写真制作だけをストイックにやっていたわけではないんです。撮影に飽きたら一緒に映画を見たり、ボードゲームをやったり、タコスにハマって、タコスを家で作って、テキーラを飲みながら撮影したりしていました」
ただし創作と趣味が重なる楽しい時間を過ごしてはいたが「最初は全く売れなかった」と小松は振り返る。局面が変わったのは、写真作家の伊丹豪がS.o.Cが作ったZINEをインスタで見て買ったことから。そこから伊丹の紹介でRondadeの佐久間磨と出会い、京都や大阪での展示が決まり、2021年の「Japan Photo Award」を受賞し、写真雑誌『IMA』から連絡が来る。
「『IMA』のZ世代特集に載せてもらったんです。奇跡ですよね。当時のインスタのフォロワー数は300人以下で多分掲載された人の中で僕らが一番知名度が低かったはずです。それから上野の森美術館のVOCA展にも選ばれて、次に西麻布のCALM & PUNK GALLERYの個展が決まりました」
とんとん拍子に展示が増えたS.o.Cだが、急激な環境の変化に適応し、コンセプト作りを学び、アートに関する知識も貪欲に身につけ、それらが結実したのが今回のparcelでの個展だった。
「parcelでのシリーズは既存の写真に対して批評的な立ち位置で制作したものです。写真の物語論ともいえるものを試みています。写真を左から右へ並べて、いわゆる写真での物語は、映画や小説にはかなわない。写真の物語性への問いでもあります」
写真の物語性以外にも、小松にはもうひとつのこだわりがある。
「大学時代に荒木経惟と森山大道の写真集を見て、越えられない感じがしたんですね。日本の写真はスナップ写真が主流ですが、僕には彼らを超えるような新しいスナップ写真を作るのは難しいと思ったんです。そして、元相方とファミレスで話し込んでいた時にアンドリュー・B・マイヤーズという広告写真家の話になって。マイヤーズはプロップ(小道具)を使ってストロボでガッチリ撮る人で、そのやり方はカッコイイなと思ったんですよ。彼の影響で日本的なスナップ写真ではなくて、写真作家の人に嫌われるような絵画的な写真からスタートしたんです」
「嫌われたい」気持ちからスティルライフへのこだわりが生まれていく
「最初、スティルライフ/静物からスタートしたということも、写真を絵画に近づけることにつながっているんです。写真家にとって、写真は絵画とどれくらい離れられるかが大事だったりするじゃないですか。僕らは逆に絵画に近づこうと」
小松から見ると、西洋の静物画から写真家が学ぶことはいまだに多いはずという。
「ライティングの技術とシチュエーションの作り方、シュールにするのか、日常的にするのか、モチーフの置き方、そしてどうやって二次元の空間に三次元の空間を表現するのか、などなど。ルネッサンス期の油絵は写真ととても近いのではないかと。写真は絵画から枝分かれしたものだから、根っこは同じだと思うんです。だから写真家が絵画を否定するのは変かなと。僕はむしろ、写真と絵画をつなぎ直すことも意義があることだと思っています」
現代写真アート研究者である北桂樹によると、S.o.Cは写真からだけではなく絵からも離れていると評する。
「これまでの写真は現実世界(三次元)からイメージ(二次元)へと変換することであったが、小松のこの作品は『ナラトロジー(物語論)』によって導き出された言語構造(一次元)をイメージ(二次元)へと持ち上げている。小松が参照しているものが三次元という現実世界ではなく、言語という一次元であることは、本来高次から低次(二次元)に向かうことで平面芸術を作ると考えられていた写真の構造を逆流させている。同じ二次元に向かう作品づくりだとしても本来の写真家とはまったくちがったものとなっている。ここがS.o.Cの作品の特異点。イメージだけでは判断できない。つまり、S.o.Cの概念的な部分に向き合うことが作品によってなされている」
コンセプトごりごりの写真家という印象を与えるS.o.C小松だが、本人は極めて飄々とした人物で、制作そのものを楽しんでいるという。
「写真を軸にしながら、他メディアやある表現の様式などを観察することが楽しいのかもしれません。そのことを自覚したきっかけは『Book2』の制作中で本当に最近のことでした。作品は何かのメッセージというよりも遊びの過程のなかで生まれるものだと感じているんです」
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