「私の存在自体がエラーみたいな」とアーティストの荒木悠(あらき ゆう)は笑う。
荒木は東京都写真美術館で毎年開催される「恵比寿映像祭」の今年(2月2日〜18日)のプログラムにて彼の作品が展示され、また十和田市現代美術館でも昨年の12月9日から現在も個展が開催中であるなど、注目のアーティスト。
荒木は日本人のKISSのコピーバンドの音なし映像、十和田市に住む外国語指導助手のインタビュー映像、外国人による正座体験映像など、誤解や誤訳をユーモラスに描いた映像作品を次々と発表している。
荒木の作風は彼の生い立ちと密接につながっている。3歳時に親と一緒にアメリカに引っ越したことで、自らのアイデンティティを疑い始めるのだ。
子供時代から漫画家になりたかった荒木は、漫画の絵を描くことに夢中になる。しかし、漫画の物語を作れないと諦め、次は絵の作品に集中するように。米国の高校から大学でアートを学び、そのスキルは帰国して東京藝術大学大学院映像研究科に入ると生かされる。
「映像の編集は意識的にイメージとイメージの関連性を考えてつないでいます。彫刻がさまざまな側面を見せることができるように、僕の場合は自分の中にある技や経験を駆使して、イメージや記号の両儀性であったり、またはその揺らぎを見せようと考えています」
アメリカと日本の二文化経験を得た荒木は作品制作と並行して、言語と翻訳を深く考える中で通訳の仕事も行うように。その経験が彼の中でディスコミュニケーションという大きなテーマにつながっていく。人生で最初の大きなディスコミュニケーション体験は、自分の名前がもたらすものだった。
「アメリカに最初に渡った時に、全く英語も日本語もわからない中でアメリカ人の先生が本の読み聞かせの時間に、突然『You』と言ったんです。僕の名前は『悠』ですから、本の一文だったけれど自分の名前を呼ばれたと勘違いして僕は即座に起立したんですね。すると周りの子たちが笑い出して、すごく恥ずかしかった記憶があります。英語圏では『you』は代名詞なので、自分の名前でありつつ他の誰かにもなりえる言葉なんですね」
荒木はそのアイデンティティの悩みを自分の強みに作り替える。
「以前、韓国人の友達から『いい名前ですね』と言われて、「なぜ?」と答えたら、「ユー・アラキ=You are lucky」と言われたんです。「あ、本当だ!」と思った以降、割と気に入っています。今までの名前を巡るディスコミュニケーションが、実はラッキーだったのではと思えるようになりました」
その事件が荒木の言葉遊びの原点になり、今までインスピレーションを与えることになる。
「ディスコミュニケーションや誤訳というのは、本来結びつきえないもの同士が結ばれることですよね。そこにものすごく可能性を感じたんです。だから、ポーラ美術館の『Connections』展に出品した『密月旅行』では『星座』と『正座』のダジャレをモチーフにしたんです。ダジャレは実は意味を飛躍させる遊びです。同じ日本語を話している者同士でも意味が通じないことが起きますよね。ディスコミュニケーションは、言語の問題ではなくて、波長の問題でもあると思うんです」
また「見たことのないもの」をつくる姿勢を藝大大学院で学ぶ。
「先生方にいつも『見たことがないものを作りなさい』と言われてきました。見たことがないものはなんだろうと四苦八苦して考えたら、胃が痛くなった。そこで、自分の体の中を見たことがないなと。それで胃カメラを使った作品を作ったんです。胃の中までカメラが入っていくと、そこに小さなプラスティック製の人形が座っているという作品です。初めて、自分の想像を超えるものができたと手応えを感じ、発表後に作品として次第に認知されるようになったんです。いわば、自分の体を拡張して映画のセットにしたわけですね」
東京都写真美術館の学芸員、田坂博子は荒木を「観察者の視点をいかに表現するかに荒木さんのオリジナリティがある」と評する。
「映像をイメージの問題ととらえるならば、情報過多であればあるほど、物理的な映画や写真、アートとエンターテインメントといったカテゴリーを超えて、人間とイメージの問題を深く探求する価値は重要になってくると思います。荒木さんには、そのようなジャンルを超えた場所でも、その眼差しをゆるめることなく、野心的にイメージの問題を深めていく作品を生み出してほしいと期待しています」
今回、恵比寿映像祭で上映するアイスランドで撮ったロードムービーも世界を「誤訳」する内容だ。
「僕は旅行に行くとその土地の食べ物を味わうことを非常に楽しみにしているんです。でもアイスランドの郊外に行くと、超アメリカンなダイナーしかなかった。ハンバーガーが25種類もあって、全てアメリカの国道ルート66の地名が付けられているんです。その時にルート66に関するロードムービーを作ろうとひらめいたんです。架空のロードムービーで、しかもアメリカにはない嘘のアメリカを描こうと」
荒木の次のステージは映画だという。
「劇映画をやるのは夢ですね。アカデミー賞欲しさでこけし職人に木彫りのオスカー像の作品を作ってもらったくらいですから(笑)。大きな物語を作るのは憧れですけど、そこは自分なりの方法でやっていきたいです」
今月の流行写真 TOP10
-
10:“Rare Beauties” by Rachel Fleminger Hudson for DAZED&CONFUSED Vol.V 2023
1997年生まれで70年代に執着する若手女性写真家によるモロ70年代テイストのビューティ。
https://www.instagram.com/p/C0eitZqtSzQ/?next=%2Fjtabsny%2Ffeed%2F&hl=ja10:“Rare Beauties” by Rachel Fleminger Hudson for DAZED&CONFUSED Vol.V 2023
1997年生まれで70年代に執着する若手女性写真家によるモロ70年代テイストのビューティ。
https://www.instagram.com/p/C0eitZqtSzQ/?next=%2Fjtabsny%2Ffeed%2F&hl=ja -
9:「オフィスレディのモダンな逃避行」by 北島敬三 for VOGUE JAPAN Feb.2024
最近ファッション写真を精力的に手がける北島敬三による過剰にギラギラした仕上がり。
https://www.vogue.co.jp/gallery/2024-resort-keizo-kitajima-story9:「オフィスレディのモダンな逃避行」by 北島敬三 for VOGUE JAPAN Feb.2024
最近ファッション写真を精力的に手がける北島敬三による過剰にギラギラした仕上がり。
https://www.vogue.co.jp/gallery/2024-resort-keizo-kitajima-story -
8:『DOGMANドッグマン』監督:リュック・ベッソン
犬を調教する男が主人公の犯罪映画。ワイルドで美学的なベッソンが戻ってきた。
https://klockworx-v.com/dogman/8:『DOGMANドッグマン』監督:リュック・ベッソン
犬を調教する男が主人公の犯罪映画。ワイルドで美学的なベッソンが戻ってきた。
https://klockworx-v.com/dogman/ -
7:Kylie Jenner by Theo Liu for Interview magazine Winter 2023
リアリティ・スターのカイリー・ジェンナーを中国人写真家テオ・リウがふざけた演出で描く。
https://www.interviewmagazine.com/culture/kylie-jenner-interviewed-by-jennifer-lawrence7:Kylie Jenner by Theo Liu for Interview magazine Winter 2023
リアリティ・スターのカイリー・ジェンナーを中国人写真家テオ・リウがふざけた演出で描く。
https://www.interviewmagazine.com/culture/kylie-jenner-interviewed-by-jennifer-lawrence -
6:"Anna Uddenberg" by Kristina Nagel for RE-EDITION A/W 2023
オブジェ作家アンナ・ウッデンバーグを被写体に極端にタイトまたはビッグサイズのスタイリングで非日常感を演出。
https://www.reeditionmagazine.com/re-edition-issue-1/re-editions-aw23-photography-kristina-nagel6:"Anna Uddenberg" by Kristina Nagel for RE-EDITION A/W 2023
オブジェ作家アンナ・ウッデンバーグを被写体に極端にタイトまたはビッグサイズのスタイリングで非日常感を演出。
https://www.reeditionmagazine.com/re-edition-issue-1/re-editions-aw23-photography-kristina-nagel -
5:“Eight” by Kyle Weeks for i-D F/W 2023
ナムビア育ち白人男性写真家カイル・ウィークスのドキュメンタルでダウナーなムードが◎。
https://www.ink.studio/clients/kyle-weeks5:“Eight” by Kyle Weeks for i-D F/W 2023
ナムビア育ち白人男性写真家カイル・ウィークスのドキュメンタルでダウナーなムードが◎。
https://www.ink.studio/clients/kyle-weeks -
4:Jack Grealish By Alasdair Mclellan for ARENA HOMME PLUS W/S 2024
サッカー選手のジャック・グリーリッシュをマクレランが格調高くセクシャルに捉える。
https://www.instagram.com/p/C0jWOqWNp_n/?next=%2Frubykantor%2F&hl=ja4:Jack Grealish By Alasdair Mclellan for ARENA HOMME PLUS W/S 2024
サッカー選手のジャック・グリーリッシュをマクレランが格調高くセクシャルに捉える。
https://www.instagram.com/p/C0jWOqWNp_n/?next=%2Frubykantor%2F&hl=ja -
3:『ストップ・メイキング・センス4Kレストア』監督:ジョナサン・デミ
トーキング・ヘッズ83年の伝説のライブ映画が4K修正リバイバル。音楽映画の金字塔と改めて。
https://gaga.ne.jp/stopmakingsense/3:『ストップ・メイキング・センス4Kレストア』監督:ジョナサン・デミ
トーキング・ヘッズ83年の伝説のライブ映画が4K修正リバイバル。音楽映画の金字塔と改めて。
https://gaga.ne.jp/stopmakingsense/ -
2:Todd Hido “THE END SENDS ADVANCE WARNING” (Nazraeli Press)
ランドスケープの巨匠トッド・ハイドの不穏なムード漂う巨大な新写真集の完成度の高さ。
https://www.nazraeli.com/complete-catalogue/the-end-sends-advance-warning2:Todd Hido “THE END SENDS ADVANCE WARNING” (Nazraeli Press)
ランドスケープの巨匠トッド・ハイドの不穏なムード漂う巨大な新写真集の完成度の高さ。
https://www.nazraeli.com/complete-catalogue/the-end-sends-advance-warning -
1:“Linda Evangelista Photographed by Steven Meisel” (Phaidon)
写真集をめったに出さないスティーヴン・マイゼルの大著はリンダの約40年分クロニクル。ファッション写真集の記念碑的一冊。
https://www.phaidon.com/store/photography/linda-evangelista-photographed-by-steven-meisel-9781838667030/1:“Linda Evangelista Photographed by Steven Meisel” (Phaidon)
写真集をめったに出さないスティーヴン・マイゼルの大著はリンダの約40年分クロニクル。ファッション写真集の記念碑的一冊。
https://www.phaidon.com/store/photography/linda-evangelista-photographed-by-steven-meisel-9781838667030/