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YMOの傑作ジャケットが金の屏風に。伝統とテクノの融合「TechnoByobu」

1978年に日本で発表され、翌79年から全米をはじめ、世界中でリリースされた『Yellow Magic Orchestra』。YMOの音楽性、そしてルー・ビーチによる和とテクノロジーを融合させたエレクトロニック・ファン・ガール(通称“電線芸者”)のイラストワークが相まって、いまだにテクノのアイコン的な作品として絶大な人気を誇っている。発表から45年を迎える今年11月に先駆け“電線芸者”の描かれた屏風「TechnoByobu」が発売された。

text: Katsumi Watanabe

伝統とテクノの融合「TechnoByobu」が完成

日本の伝統芸術とポップなキャラクター、そしてNFTが融合された作品は、過去と現在、そして未来をつなぐ作品になっている。しかし、なぜ屏風だったのだろうか。「TechnoByobu」を制作した音楽レーベル〈U/M/M/A Inc.〉主宰の弘石雅和、さらにエレクトロニック・ファン・ガールの生みの親であるルー・ビーチ、YMOのプロデューサーでもある〈アルファレコード〉創業者の村井邦彦からも話を聞くことができた。

弘石雅和

2021年にオフィスを南麻布に移したことから、すべてが始まりました。オーナーの好みで、広い空間の真ん中に畳敷きの茶室が造られていたんです。

そこにシンボリックなアート作品を置きたいと探していましたが、当時流行っていたZoom飲み会の参加メンバーへ「屏風を置きたい」と相談したところ、広島118年続く、箔押しを用いた紙の会社、歴清社でアートディレクターをやっている方から「屏風なら任せてください」と声をかけていただいて。

その瞬間、発売当時から大好きで、ずっと愛聴しているYMOのアルバムビジュアル“エレクトロニック・ファン・ガール”のイメージが降りてきた。オフィス用に一隻作ってみたところ、ミュージシャンや音楽関係者から、想像以上に評判が良かったので、会社創立20周年を記念する時期でもあったし、商品化できないかと考えたんです。

試作を続ける中、なかなか頭のワイヤー部分の箔の色が出なかったため、色校正を6回も出してもらったり。さまざまな困難に見舞われましたが、いろいろな方のご協力のもと、なんとか完成までこぎ着けました。


キッカケは、まさかの個人鑑賞用とは。予期せぬスタートながら、いざ実物を見てみると、金屏風にプリントされた電線芸者の存在感に圧倒される。関係各位からも注目を集めたという。

弘石

YMOが所属していた〈アルファレコード〉の関係の方、そして現在権利を所有している〈ソニー・ミュージックパブリッシング〉へ相談したところ、すごく反応が良かった。フィジカル作品ながら、当時出てきたばかりのNFTにもリーチするという企画が良かったのかもしれません。

ルー・ビーチさんからも「私の作品が実用的な調度に使われるのは初めてで、しかも屏風だなんて なんでも協力する」と快諾していただきました。

“電線芸者”誕生秘話

日本から突如「TechnoByobu」の話が届いたLA在住の村井邦彦、ルー・ビーチの両名。“エレクトロニック・ファン・ガール”は、44年経った今でもインパクト十分。このコラージュによって制作された、強烈なキャラクターの誕生した経緯を聞いてみた。

村井邦彦

〈アルファレコード〉は、アメリカの〈A&M〉と提携していました。マーケティング会議で、YMOの曲を聴かせたところ、若いスタッフたちに大受けだったようで。その反応を受け、プロデューサーのトミー・リピューマが全米での発売を決めた。

実は“エレクトロニック・ファン・ガール”は、〈A&M〉のプロダクトマネージャーが、勝手にルーさんに依頼して作っちゃったんですよ(笑)。私は面白いと思ったので、彼女を“電線芸者”と名づけました。

ルー・ビーチ

〈A&M〉のアート部門からの依頼があった時点では、当然YMOのことを知らなかった。試しに音楽を聴いたところ、初めて耳にするようなサウンドで、すごく衝撃を受けたんです。

日本のバンドを紹介する意味で、一目でわかるようにしたいと考え、資料を探す中で、古い芸者の写真を見つけた。

モダンでクールな音楽の雰囲気を醸し出すため、サングラスを加え、髪のワイヤーは、エレクトロニックな音楽を表現するためにコラージュしました。

ちなみに“エレクトロニック・ファン・ガール”は、私が考えた呼称で、ダブルミーニングを込めている。一つは彼女が持っている扇子の“Fan”、そして私がYMOの“ファン”であるということです。

完成した「TechnoByobu」は、弘石自ら手荷物で運び、無事2人に届けられたそう。もちろん両氏とも、その出来映えに大満足している。

「Electronic Fan Girl」
『Yellow Magic Orchestra』は人気のため、現在までに世界中で再販されてきた作品だが、少しずつ色味が変わってきてしまったという。「Electronic Fan Girl」では、1979年にリリースされたアメリカ・オリジナルプレスの色味に再現。「頬や口紅の色など、すごく繊細な赤がカラーリングされていて。可能な限り原盤に忠実に再現していただきました」(弘石)

NFTで作者へ利益を還元

「TechnoByobu」はフィジカルにもかかわらず、デジタル作品の証明書であるNFTが導入されているという。

弘石

屏風の裏側に、エディションナンバーやルー・ビーチのサイン、そして立花ハジメさんにデザインしてもらったロゴを載せたプレートがある。その中に2cm角くらいの穴があり、〈スタートバーン〉社のICタグが入っているんです。

その部分にスマホを当てると、証明書が表示される。個人的には紙の証明書を信用していないところがあるし、なによりテクノロジーを駆使していて、かっこいい。例えば、作品を売却する際、手数料が発生するんですが、ロイヤリティが、作者へ還元されるというシステムになっていて。

今までは、例えば中古のレコード盤を10万円で買っても、オリジナルの作家にはまったくリターンがなかった。僕らは、アートの投機的な目的というより、アーティストへのインセンティブを支払うことを重要視しています。

「TechnoByobu」は、今後シリーズ化されるという。次回作の構想は?

弘石

そもそも最新の技術を駆使したプロダクトというものが大好きなんです。「TechnoByobu」のメインターゲットを考えると、我々と同世代の40代、50代になってくると思う。

僕らが10代を過ごした昭和の時代には音楽だけに限らず、ゲームやアニメなど、新しいカルチャーがたくさん発表されました。そういうデザインも意識しつつ、次回作でも日本の伝統とテクノを融合していきたいと考えています。