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機能美にユーモアを融合させた眼鏡作り。デザイナー・外山雄一の活動の源を探る

国内外で広く活躍する大人たちは、今何に興味があり、どんな挑戦をしているのか。旗艦店をオープンし話題の眼鏡デザイナー・外山雄一さん。業界で新風を吹かせるかっこいい大人を訪ね、活動の源を探りました。

photo: Yasuyuki Takaki / text: Minori Okajima

〈YUICHI TOYAMA.〉デザイナー・外山雄一

13世紀にイタリアで発明されたといわれる眼鏡。視力矯正のために誕生した器具にデザイン的視点が加わり、多くの著名人の目元を飾り、その人の個性として印象を大きく変えてきた。そんなスターたちの姿を見て眼鏡に憧れを抱いた少年が外山雄一さんだ。

彼が2017年にスタートした〈YUICHI TOYAMA.〉は、工芸に着想を得た、用の美を体現するプロダクトが魅力。2023年は〈ジョルジオ アルマーニ〉と協業しアイウェアを製作したことも話題となった。

「お洒落に目覚めた中学生の頃、陣内孝則さんがテレビで〈アラン・ミクリ〉の眼鏡を掛けていて。素直にかっこいいと思いました。当時はお金がなかったから、似たデザインを買って“いつかは本物が欲しい”と夢見ていましたね。高校生になってから好きなものを買うために左官職人のもとでアルバイトをしていた時、目の前の仕事に打ち込む職人の姿がかっこよくて。

あの経験が、今の僕のもの作りに対する姿勢に通じていると思います。それから数年が経ち美術の専門学校を卒業する時に、職人のように一生懸けて向き合える仕事として関わりたいと、学生の頃から好きだった眼鏡業界に思い切って足を踏み入れたんです」

〈YUICHI TOYAMA.〉デザイナー・外山雄一の学生時代のスケッチ
学生当時はヒップホップカルチャーに熱中していた外山さん。眼鏡のスケッチは、立体的に文字を描くグラフィティに通ずるのだとか。

眼鏡作りにおける“デザインの職人”になりたい

専門学校卒業後、東京と福井・鯖江(さばえ)に拠点を置くメーカーに就職した外山さん。12年にわたって海外のメゾンや日本のデザイナーズブランドの眼鏡を手がけ、その後独立。フリーランスを経て、09年から自身の名を冠したブランドをスタートさせた。

「もともと、眼鏡は視力を補うためにある。実用的で必要性のある機能美、そこから生まれるデザインや遊び心を僕は大切にしています。トレンドとして移り変わるものより、長く愛されるものを作りたい。鯖江で眼鏡を作ってくださる職人さんがいてこそですが、僕は“デザインの職人”になれたらと心がけています」

人の手による温もりを大切にしている外山さんにとって、冬のあたたかな服とは?

「僕は眼鏡に特化した人間なのでファッションのことは詳しくないですが、職人の温もりを感じられるものが好きですね。ここ最近で言えばクラフトを得意とするファッションブランド〈BODE〉のように、手仕事で丁寧に編まれたニットやカラフルな刺繍のシャツに魅力を感じます。クスッとしてしまうユニークなモチーフや手法にも心惹かれるんですよね。

〈YUICHI TOYAMA.〉でも、2本の縄跳び競技のダブルダッチに見立てたディテールなど、機能的なデザインの中に、意外性のあるものを組み込むことが多いです。美しいプロダクトの中にも、人間らしさがあったり、完璧じゃないことに面白さを見出してくれたらと」

2024年は東京・青山に初の旗艦店をオープン。〈YUICHI TOYAMA.〉を始めて7年のタイミングで店を構えたのは理由があるのだとか。

「学生の頃、原宿にある〈A STORE ROBOT〉によく通っていたんです。そこでスタッフのお兄さんにファッションを教えてもらったり、かっこいい音楽を聴かせてもらったりして。対面だからこその密なコミュニケーションの大切さを覚えたんです。そんな経験があったので、ブランドを始動してからいつかお店を開きたいとずっと思っていました。

眼鏡って、気に入ったフレームを見つけて購入、という簡単なプロセスでは成り立たないんです。どういったシチュエーションで眼鏡を掛けるのか、フィット感の好みはどうなのか。お店のスタッフとじっくり話をしてもらうことで、長く愛用できる一本に出会ってほしい。

店内の奥はオーダーメイドで眼鏡を作るスペースになっているのですが、そこには僕が影響を受けたレコードや書籍、家具、オブジェを置いています。それらを見た後に〈YUICHI TOYAMA.〉の眼鏡を見てもらうと、通ずる点を感じるはず。それが実店舗の魅力の一つかなと思います」

オーダーメイドで眼鏡を作るという新しい取り組みは、どういった経緯から生まれたのですか?

「僕自身、人とのコミュニケーションが大好きなんです。ライフスタイルや食の好み、普段のファッション……。人それぞれの個性を対話によって聞き出し、唯一無二の眼鏡を創れることが楽しみで仕方がありません」

〈YUICHI TOYAMA.〉デザイナー・外山雄一
2024年4月に青山・骨董通りにオープンした旗艦店にて。外山さんが掛けている眼鏡は、フレームの内側にメタルを忍ばせたモデル“BASTILLE”。「角度によってちらりとインナーメタルが見える塩梅がいいんです」