toi books(本町/大阪)
南船場に誕生した本屋に、大阪や京都から、東京から、日本各地から作家たちが足を運んでいる。古いビルの2階で営業する〈toi books〉。たった5坪のこの空間に作家が集まる理由は一つ、店主・磯上竜也さんの存在だ。
磯上さんは大阪生まれの33歳。作家に、本読みに、地元民に愛されながら2018年秋に閉店した書店〈心斎橋アセンス〉の出身だ。〈アセンス〉閉店の報が流れたとき、ツイッターを中心にSNSでは嘆きの言葉が多く飛び交った。
大阪出身の作家・柴崎友香さんに作家の長嶋有さんが声をかけ、ともに「ありがとうアセンス選書フェア」の企画を立ち上げ、主導した。2人の呼びかけに応えて、津村記久子、吉村萬壱、円城塔、酉島伝法、福永信、最果タヒ、益田ミリ、オカヤイヅミなど、店に愛着を持つ26人の作家が感謝のコメントを寄せた別れの日から半年後、2019年4月に〈toi books〉がオープンした。
店を始めるうえで目指したのは「問いを見つけることができる本を置き、本の見方/味方が増えるような本屋」だという。6〜7割を占める新刊書は基本的に買い切り。冊数を抑えながら、新進作家・大前粟生の『私と鰐と妹の部屋』を110冊売り上げる。
ここ最近動いている本を聞けば、サミュエル・ベケット『モロイ』の新訳にフェルナンド・ペソア『不安の書』と、エッジの効いた答えが返ってくる。目を引くのは壁の一面を埋める古書の棚。十数冊ずつが収められた枠ごとに「この世で最も難しい」「気になるちがい」など、50あまりの短い言葉が置かれている。
「この括りが面白いんですよね。これが“恋愛”とか“哲学”とか“歴史”とかだったら、並ぶ本も手を伸ばす人もきっと変わってくると思います」と柴崎さん。ジャンルも書き手も本の判型も出版社もバラバラに、キーワードに沿って並ぶ本を目で辿り、切り口を味わう楽しみがある。
入口の左手と正面の棚、中央の平台には新刊書。店の外には100円均一本も置く。置かれる本は、磯上さんが目を通したり、愛読したりしていた、自信を持って薦められる本ばかり。
なぜ今、新刊書店なのか、なぜ文芸書を多く揃えるのか?と問えば「書店が激減している今、本、特に文芸書が置かれるスペースはどんどん削られています。伝わりやすく読みやすいものばかりではないけれど、文芸こそ本という形で出され、人の手に渡るべきものだと思うので」と磯上さん。
この場所で、本との新しい出会いの機会を作り続ける。