「モノラル音源」といわれてもわかるようでわからないのが正直なところ。平たくいえば、ステレオ録音登場前、単一のオーディオチャンネルで録音されたものである。ステレオ録音と比べると、立体感こそ少ないが、奥行きがあり、かたまりでドーンと浴びせかけるような圧があるサウンド。いわゆるガッツのある音というわけだ。
そのモノラル音源をとことん突き詰めたモノラルサウンドの殿堂を米子で見つけた。その名も〈ロックンロールレコード〜お茶の間の間に〜〉、モノラルサウンド同様、屋号も直球ど真ん中である。
国道からひときわ目立つ、ハンドメイドで描かれたいなたい看板に誘われて、訳もわからず足を踏み入れると、中は薄暗い大広間。直島にあるジェームズ・タレルの南寺のようで、漆黒の暗闇というわけでないが、枯山水のように配置されたスピーカーユニットが佇む。
タレルの仕掛けは光だが、この店の仕掛けは音。圧倒的な圧で鳴り出したのはデュアン・エディの「デザート・ラット」。針を落とした時のノイズからしてかなりのインパクトで、当時のブルースのいかがわしさが荒々しく響く。続いて1963年ビートルズのファーストアルバム1曲目「I Saw her Standing There」。ポールのカウントがより勇ましく聞こえるのは気のせいか。録音された音というより、生々しいライブの音という感じだ。ちなみにこのレコードは英オリジナルプレスの7インチEP盤だという。
基本、この店でかかるレコードは7インチ盤がメイン。「シングル盤には音の強さが違いますね。また45回転なので、溝が長くなり、よりゆとりある音となります。なにより、オリジナルプレスもシングル盤だと、それほど高価ではないので集めやすいんです」とオーナーの木下浩史さん。
機材もさぞ贅を尽くしているかと思いきや、オーディオそのものよりも、その鳴らせ方に注力しているらしい。ターンテーブルは〈GARRARD〉のオートチェンジャー、アンプはプリ〈FX-AUDIO-〉だし、パワーアンプも中国の〈RFTLYS〉と激安真空管ユニット。スピーカーこそ〈ALTEC〉のワンコーンのSANTANAだが、すべてのエレメントが当時のもの。
特に針の特性が重要で、モノラルは特に針がポイントで重くて太い。使用するモノラル針は当時主流だった〈GE〉のバレリラ。それをフォノイコライザープリアンプと真空管アンプで鳴らす。ステレオの針は細いことで繊細な音を拾うが、モノラルはその真逆ともいえる。徹底的の往時にこだわった再現性を極めているようだ。
選曲はオーナーの木下さんが選ぶ。取材時はモノラルの良さに慣れない我々のために、特徴的な選曲でジュリー・ロンドンの「Come On A My House」、からボ・ディドリー、ジミー・ヘンドリックスとガッツが伝わりやすいセレクトでかけてくれる。音圧に疲れたと見るやカーペンターズの「シング」。美しくクリーンな曲がモノラルにフィットするか半信半疑だったものの、天使の声と言われたカレン・カーペンターの声が思いのほか太く、モノラル向きと気づく意外な選曲。
モノラル以外でもT.REX の「20センチュリー・ボーイ」、邦楽は基本、かけないながら、ブルーハーツの「リンダ・リンダ」をサービスで。これまた笑ってしまうくらい圧強め。まるでライブ会場にいるようでもある。木下さん曰く、「ライブ会場の音響は基本、モノラル。それでいて立体的なわけですから、ライブっぽく聞こえるのは理にかなっています。70年代以降のレコードで昔のモノラル版のように聴くのもいいものですよ」と妙に納得。
帰りがけに「最後にこれでも」と言ってかけてくれたのは、米子ご当地ソングから、まさかの「ゲゲゲの鬼太郎」を目玉のおやじもびっくりな爆音で。モノラル殿堂ともいえる、このお店、音像、選曲も合わせて、洒落も利いている。
【SOUND SYSTEM】
Speakers : ALTEC SANTANA
Turntable : GARRARD 60’s オートチェンジャー
Pre Amplifier : FX-AUDIO-
Power Amplifier : RFTLYS A2
Phono Equalizer : GE UPX-003B