外はおちゃらけ、中は本格
実力派コミックソング
芸人やお笑いの面々が歌う、みんな大好き「コミックソング」。広義には「ノベルティソング(企画もの)」と呼ばれるこれらをひもとくのは、ジャニーズ研究でも知られる批評家の矢野利裕さん。
「外せないのはバンドマン出身のクレージーキャッツやザ・ドリフターズ。根本に“音楽は人を楽しませるコミカルなもの”という発想があって、そこからお笑いへ特化していった人たちです。元が音楽畑だから演奏も楽曲作りのレベルも別格。
例えば『ドリフのバイのバイのバイ』は、ロカビリー世代のいかりや長介さんたちの中に、ソウル世代の志村けんが正式加入した後の曲。コミカルな歌詞にくるまれてますが、実はイントロのワウワウギターや超絶グルーヴィなパーカッションがヤバい。表層的な面白さじゃなく本質的な“芸”で楽しませるんです」
その魂は、80年代の演芸にテクノの打ち込みを導入したバラクーダや、山下達郎や桑田佳祐もファンのコミックロックバンド・東京おとぼけCATSにも受け継がれた。
「彼らを支えるのは人を楽しませたいという気持ち。アートではなく、ハイレベルの娯楽なんです」
「アラビアの酋長」フランキー堺とニュー・シティ・スリッカーズ
喜劇役者でドラマーのフランキー堺が“冗談音楽”のスパイク・ジョーンズをコピー。「コミカルなインストが続いた後、最後の曲だけは全くボケずに演奏し“これ関係なかったか”とつぶやいて終わる。カッコいいことがそのまま面白いんです」。
『LET'S GO COMIC JAZZ』収録。作詞・作曲:フランキー堺。1971年。
「ドリフのバイのバイのバイ」ザ・ドリフターズ
「曲の途中で入る志村けんの“ゥワ~オ”やいかりや長介の“ドゥザハッスル!”も印象的。当時の子供たちはこの本格ソウルミュージックを浴びてたんですね」。原曲は海外の行進曲に詞をつけた新民謡「東京節」。ドリフはそこへ70年代ディスコ文化を取り入れた。
作詞:添田さつき/替え唄:森雪之丞。1976年。
「恋のホワン・ホワン」三遊亭円丈
「円丈師匠がニック・ロウの『クルーエル・トゥ・ビー・カインド』(1979年)を日本語カバー。大瀧詠一っぽいアレンジが、やたらカッコいい。DJ界隈の超人気曲です」。モッズスーツでリッケンバッカーを抱えるジャケも棒読みボーカルも破壊力抜群。
作詞・作曲:イアン・ゴム、ニック・ロウ/訳詞:有川正沙子/編曲:藤田大士。1981年。
「夕方フレンド」ダディ竹千代と東京おとぼけCATS
「プログレやハードロックを志向する一方でクレージーキャッツも好きという唯一無二すぎるコミックロックバンド。“You've Got a”と“夕方”をかけただけの歌詞が続くこの曲は、ニューオーリンズっぽいファンクチューン」。『ダディ竹千代と東京おとぼけCATS 1st』より。
作詞・作曲:ダディ竹千代。1980年。
「ズンドコ節」stillichimiya
ラッパーの田我流ら5人からなるヒップホップグループ。「ドリフの“ズンズンズンズンズンズンドコ”にラップを乗せた曲。友達同士のわちゃわちゃしたストリート感がありつつサマになっていて面白い。落語や口上など言葉のノリとリズムで笑わせる伝統芸の系譜も感じます」。『死んだらどうなる』収録。
作詞・作曲:stillichimiya。2014年。
「ダニエルさんはペンキ塗り」ザ・たこさん
大阪のファンクバンドが、映画『ベスト・キッド』の主人公を歌った曲。「演奏は文句なしのカッコよさ。根底に“ファンクは笑かしてなんぼ”という意識があるのがまたカッコいい。曲は70年代シカゴソウルの名曲『ウー・チャイルド』のパロディ」。『ナイスミドル』収録。
作詞・作曲:ザ・たこさん。2006年。
「FUNKY KING」中村有志
ヤン富田がトラック制作。いとうせいこうも参加した『FUNKY KING PT.1』より。ジェームス・ブラウンの「セックス・マシーン」のカバーで、例のシャウトは“ギロッポン”“広尾な”。「音だけ聴くと純粋にJBリスペクトのカッコいい曲。なのに歌っているのがコメディアンの中村という構造が面白い」。
作詞・作曲:FUNKY KING。1988年。
「愛してタムレ」谷 啓
クレージーキャッツの一員でトロンボーン奏者の谷による人気曲。「タムレはタヒチのリズム。60年代は、橋幸夫の『恋のメキシカン・ロック』など海外のリズムが歌謡曲に取り入れられ始めた時代。ダンスのリズムに合わせて谷啓が陽気に歌うこの曲も、歌詞はダジャレですがガチでいい曲」。
作詞:ヒライワ・タカシ/作曲:萩原哲晶。1963年。
「あらら こらら」バラクーダ
「『日本全国酒飲み音頭』で有名なコミックバンドが、“演芸に打ち込みのリズムを取り入れたい”というミュージシャン的発想で作ったテクノポップ。オリエンタルラジオの『PERFECT HUMAN』の先駆けですね。ミックスは“4人目のYMO”と呼ばれる松武秀樹。レベルの高さはお墨付き」。
作詞:高田ひろお/作曲:羽田光徳。1980年。