運転から撮影まで、なんでもやる
かまいたち・濱家隆一
モリシはすごい頑張り屋さんですね。細かいところまで手を抜かへんし、気を回してくれるし。僕たちの(キングオブコント2016決勝でも披露した)ホームルームのネタも、ベースを考えたのはモリシやし。
かまいたち・山内健司
森下が凄いのは“痩せない”ところ。まだ体力有り余ってるんだな、働けるんだなって思ってます。ただ時間があったらYouTubeを撮ろう撮ろうとしてくるんです。いい加減にしてほしい。あなたのおもちゃじゃないんですよ?
森下知哉
そんなこと思ってないですよ(笑)。
濱家
山内、YouTubeは俺らがやろうって言ってんねんから(笑)。
山内
僕がコロナ療養で休んだときも“ストックがない”って。でも実際は足りてたんです。詐欺ですよね。
森下
時間があるときに撮らないとって……。
濱家
……まあでも、撮りながら気持ちよくなってるところはあるかもしれんな。
森下
ありませんよ!
濱家
こんな風にずっと一緒にやってきたとこがあるんで、3人目のかまいたち……って思うような大それた考えだけは持ってほしくないなって感じです。
山内
そう僕、森下のせいで逮捕されそうになったこともあって……。
(YouTube:【嘘つき野郎】かまいたちが今まで会った中で一番の嘘つきを決定!参照)
かまいたちの二人がこう評価する、構成作家の森下知哉さん。大阪時代から親交を深め、ラジオや公式YouTubeチャンネル、単独ライブなど、様々な仕事を手掛けている。
『かまいたちのヘイ!タクシー!』(TBSラジオ・毎週月21:30〜22:00)は、構成作家兼“運転手”の森下さんが専用の“かまタクカー”を運転し、かまいたちを乗せて東京の街へ飛び出していくロケ番組だ。
「ラジオの収録は概ね隔週です。スタッフと打ち合わせをして、台本を作って、どこに行くかをスタッフさんと話し合い、現場入りしたかまいたちさんと本打ち合わせをする。
最近はコロナ対策でスタジオで録ることが多いんですけど、ロケに出る日は僕が運転します。ありがたいことに作家の仕事が忙しくなって昨年辞めたんですけど、番組が始まった頃はタクシー運転手の仕事をしていたんです」
森下さんの仕事のもうひとつの柱であるかまいたち公式YouTubeチャンネル「ねおミルクボーイ」は、2020年に配信を始めた。現在チャンネル登録者数は160万人(2月25日時点)。2日に1本の頻度で動画をアップしている。
「週に一度Zoomで企画会議を行っています。僕とかまいたちさん、大阪の作家の友光さん、『かまいったーTV』(TwitterのLIVEバラエティ番組)のディレクターの三原さんとでネタを出し合って、採用された企画を僕が撮っていく。かまいたちさんの空き時間で撮影をして、素材を三原さんか、映像編集をお願いしている武石さんに送って編集してもらう。
“ベスト3”や“○○先生”などのシリーズものはお任せしてますが、新企画は僕から“こういう風にしたいです”という意向を伝えて、初稿があがったらチェックをして、戻して、最終版を全員のLINEグループに送る。
かまいたちさん側から気になる点が来れば対応しますし、なければそのままアップ。一週間、そういう動画のやり取りをずーっとやってます」
森下さんは動画にも時折登場する。自らの相関図を話す回や、森下さんの地元の“どちらにしようかな”がおかしい回 など、密な掛け合いが面白い。その原点は、大阪のお笑い劇場『baseよしもと』で進行の仕事を始めた2006年頃にあるという。
『baseよしもと』でともに体験した、笑いの原点
当時、笑い飯や千鳥といったトップ組には勝手に恐縮していた新人の森下さんだったが、レギュラーメンバーになったばかりのかまいたちや天竺鼠、藤崎マーケットなどの同世代の芸人たちとは距離が近かった。
「彼らと面白いことがしたい」と、ネタの合間に行うコーナーに力を入れるようになった。
「コーナーって、芸人にとっても作家にとってもすごく大事なんですよね。先輩芸人の笑い飯さんや千鳥さんが笑ったら、これは面白いことなんやってわかる。そこでウケる術を研ぎ澄ませていくんです。
裏の大楽屋でも常に掛け合いが生まれて、そこでも磨きがかかる。あの環境はすごくいいシステムやったと思います。僕もたまに無茶振りされて“変なヤツやなあ”って。そのノリは今のYouTubeとかラジオの感じと変わらないですね」
青春の『baseよしもと』は2010年に閉館。その後は『オールザッツ漫才』(MBS)のような人気番組に呼ばれたり、単独ライブを手伝ったりと、フリーの作家として多忙を極めるように。
しかし30歳を過ぎ、「周りの人に助けられてばかりではいけない」と一念発起。2015年に単身東京へ向かい、作家の先輩宅でルームシェアを始めた。
「大宮で活動していたGAGさんの仕事をしていました。そもそも大阪時代の単価がそんなに(笑)。なので収入がガクッと下がった感覚はなかったし、むしろ時間ができて、お笑い以外のインプットもはかどりました」
タクシーで開けたラジオの道。そしてYouTube
ラジオの要でもあるタクシーに乗ることになったのは、上京から2年が経った頃だ。家族を養える収入を得たら大阪の彼女と結婚しようと決めていたが、果たせそうにない。
「家に入れるお金はタクシーで補填するから、作家は続けさせてほしい」と結婚を決めた。タクシーとは無縁だったが、四国の田舎育ちで車の運転は好きだし、面白そうという予感もあった。
2017年、正社員のタクシードライバーに。そして数カ月後、東京進出を果たしたかまいたちの東京初冠ラジオ番組が決まった。
打ち合わせで山内さんが「森下はタクシー運転手なんですよ」と発言したことでタクシーでロケを行うことになり、森下さんは制服を来てタクシーに乗り、ドライバーとしてラジオに参加することに。2020年にはYouTubeがスタートする。
「かまいたちさんが『ダウンタウンDX』にゲスト出演したとき、ダウンタウンの松本さんが『ねおミルクボーイ』というチャンネル名を決めてくれたんです。で、収録直後に連絡が来て、『2週間後には始めたい』って(笑)。
番組オンエア直後の23時にリリースと動画を出すことが決まったんで、バタバタで進めました。触ったこともない〈アドビ〉のプレミアを入れて、取り込んで、編集して……。書き出しをミスって、アップロードできたのが22時59分。喫茶店も閉まったので、外苑前の外れの路上で作業しました」
とにかく面白いものを、と思って始めたチャンネルは、スタート当初から好調な滑り出しを見せた。だが何しろ全員が未経験者。当たると思った動画は当たらないし、思いがけず当たる動画もある。今だに答えはわからないという。
「とにかく再生回数をちゃんと上げていこうっていう気持ちで作ってます。かまいたちさんは真面目なんで、賞レースを攻略していく感じに近いかもしれないですね。始めるときに“本気でやる”って仰っていたし。それも僕は嬉しかったんですよ。
2019年が『M-1』ラストイヤーで、もしお二人のお笑いに対する熱が冷めたら……という気持ちがあって。だから僕も“やるからには本気でやろう”と覚悟しました」
作家とはどんな仕事なのか
目標は「登録者数1000万人」という森下さん。かまいたちの作家として心がけていることは?
「“山内さんが変に見えるように”っていうことですかねえ。きっと濱家さんも、山内さんがどうサイコパスに見えるか、というのをネタのキーにしてるんじゃないかと思うんです。
そこに縛られずにコントとしてフラットさを保てるのが、山内さんの凄いところでもあるんですけどね。あと、YouTubeを撮るときに自分の中で決めてるのは、“かまいたちさんのプラスにならないことはしない”こと。非人道的なことやキツいことでバズっても、お二人の活動のプラスにはならないじゃないですか。そこは絶対やらないです」
最後に、森下さんにとって構成作家とは一体どんな仕事といえるだろう。
「僕、大学卒業してすぐこの世界に入ったんで、一般の社会の大変さを全く知らなかったんです。でも、タクシーにサラリーマンの方々を乗せると、皆さん口を揃えて“仕事が楽しくない”って愚痴を言うんですよ。
もう、ものすごく衝撃を受けて。作家の仕事は、準備は大変ですけど、ライブや番組当日は絶対楽しいんです。寝れなくて大変でも、“仕事が楽しくない”とは一度も思ったことがない。そういう仕事ができてるのは、ありがたいことだなって思いますね」
YouTubeの撮影機材を肩から下げ、森下さんは次の現場へ。「このあとはオンラインで打ち合わせがあります」。構成作家の下支えによって、今日も新しいお笑いが生まれている。