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夏の夜に爽やかな「Summertime」をどうぞ。『The Modern Jazz Quartet Plays George Gershwin's Porgy And Bess』モダン・ジャズ・カルテット。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.31

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illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『The Modern Jazz Quartet Plays George Gershwin's Porgy And Bess』Modern Jazz Quartet(1965年)

夏の夜に、爽やかな
「Summertime」をどうぞ。

実は、僕が初めてレコードで持った「Summertime」がこのModern Jazz Quartet(以下MJQ)のアルバムです。1960年代半ばにMJQがイギリス公演をしたんですが、そのコンサートを僕は観に行ったんです。当時中学生だったと思うけれど、あれが僕にとっての初めてのジャズのコンサートでした。MJQのジャズは聴きやすくて、比較的誰でもついていける優しいジャズとして、当時、とても人気がありました。

もちろん、ミルト・ジャクスンのヴァイブラフォーンはじめ、みんな超絶技巧の持ち主なんだけどね。で、僕はそのコンサートを観てMJQに惚れ込んじゃって、すぐにレコード店に行きました。そうしたら、ちょうどそのとき最新作として並んでいたのがこのアルバムでした。MJQが「Porgy And Bess」を演奏するという、ある意味、企画性の高いアルバムだったのかもしれません。

このアルバムは特に名盤という扱いではないし、あまり語られることもないんだけれど、少年時代に僕が初めて買ったMJQのアルバムだったんです。当時の僕のようなジャズをほとんど聴いたことがない少年にとっては、ちょうどいい入口だったと思います。

そしてもう一つの理由はやはり、最も爽やかな「Summertime」です。レコードを買って家に帰ってすぐ聴いたら、「Summertime」がとにかく気持ちよくて。今でもあのイントロを聴いた瞬間に、涼風が吹き抜けます。

MJQは、ピアノのジョン・ルイスとヴァイブラフォーンのミルト・ジャクスンが中心。リーダー格のジョン・ルイスはコンポーザー、アレインジャーとしても優れているし、クラシックの世界もよく知っている人でした。MJQが持っているあの優雅な雰囲気は、主にジョン・ルイスによるものではないかな。

一方、ミルト・ジャクスンはブルージーな感覚をすごく持ったヴァイブラフォーン奏者です。楽器そのものの柔らかい音色のおかげで、まだジャズをロクに知らなかった10代半ばの僕が彼らの演奏にのめり込んだのだと思います。またこの上品さの中に素晴らしいグルーヴがあります。

Modern Jazz Quartet

side A-1:「Summertime」

1930年代にミュージカル『ポーギー&ベス』のためにジョージ・ガーシュウィンが作曲したこの曲は、ジャズの世界では演奏していない人を探す方が早いほどの定番曲です。名演・名唱といわれる演奏がいくつもありますが、MJQによるこの演奏ほど爽やかな「Summertime」は、ほかにないはず。