肩書は「研究者×音楽家」
やるからにはバズらせたい
WurtS
大学に入るときに留学を考えていたんですが、コロナ禍でできなくなって。それがTikTokを始めたきっかけなんです。
鈴木おさむ
大学ではマーケティングを学んでるんでしたっけ?
WurtS
そうです、マーケティングや現代カルチャーに興味があって。で、SNSで発信しようと思ったときに、何のコンテンツをやるかと考えて。もともと音楽が好きだったので、SNSでマーケティングして作ってみようと。TikTokというプラットフォームを最大限生かすコンテンツを考えたとき、音楽重視の動画がよく観られる傾向にあったので。
鈴木
しかも、TikTokで最初に発表した曲「分かってないよ」は、こういう曲がサブスクで話題になるんじゃないかと歌詞やメロディも研究して。それでちゃんとチャートに上がるんだからすごい。
WurtS
歌詞を大事にしたい曲だったので、詞を乗せてリリックビデオみたいにしようと。「分かってないよ」という言葉自体も耳に残るし、より強調できるかなって。
鈴木
「音楽研究家」だよね。
WurtS
肩書としては「研究者×音楽家」としています。
鈴木
やっぱり、「やるからにはバズらせたい」もんね。
WurtS
バズらせたいです(笑)。
鈴木
だからこそ研究する。それがたまたまマーケティングという言葉になるだけで。マーケティングで音楽を作るというと、ヘンな誤解をする人もいるけれど、でも、それはわざわざ言わないだけで、昔からみんな当たり前にやってきたこと。いまの若い世代は、そこに意識的だし、自分自身をちゃんとプロデュースできる。世の中にウケるためにはどうすればいいか、よく研究してるもんね。
WurtS
海外のアーティストはそれがわりと普通なんです。ヒップホップのアーティストは、例えばドレイクとか、「ラッパー兼実業家」を名乗る人も多くて。セルフマネジメントが当たり前ですし。だから、僕の中では、どの層にどんなふうに聴かれているかを分析して音楽を作るのは、ごく自然なことなんです。
TikTokは夢がある!
若手にもレジェンド芸能人にとっても新しい表現の場
鈴木
コロナ禍以降、この2年で日本のシーンも急激にそうなったもんね。というか、10年20年に一度の変化が一気に来ちゃったと思うんです。ステイホームでサブスクで音楽を聴き始めた人が急増したし。だから、音楽チャートに上がってくるものの大半がTikTokかYouTube発。申し訳ないけど、テレビドラマの主題歌なんて、全然上に上がってこない。WurtSもそうだし、Vaundy、YOASOBI、瑛人、みんなTikTokで流行ってるからというのが理由。すごい変化が現れたなと。しかも、ネット上のキャラクター像を遊びながら作ってる部分もあるじゃない。それがTikTokによく合う。10代20代の子たちに刺さるようにできるなって。
WurtS
僕も20代で、同じ世代に届けるように考えています。
鈴木
TikTokが面白いなと思うのは、WurtSみたいに狙って発信する人がいる一方、何がキッカケで当たるかわからない部分もあることで。川崎鷹也の「魔法の絨毯」はブレイクするまで時間がかかったでしょう。いきなり掘り出されることもあるから、夢があるんだよね。宝くじのチケットがみんなに配られているというか(笑)。
WurtS
僕は、“おすすめ”フィードの仕組みがTikTokのメインだと思っていて。ほかのSNSは自分から観たいものを調べますが、TikTokは勝手に流れてくるので、スライドしていくと自ずと覚えていくという。
鈴木
僕も無作為に観るのがすごく好き。TikTokは雑誌だと思うんです。いろんな情報が雑多に目に入るのは雑誌と似てるなって。
WurtS
興味のなかったことまで知ることができたり。
鈴木
TikTokで人気に火がついたフレデリックが、和田アキ子さんと「YONA YONA DANCE」をコラボしたのがすごく話題ですよね。アッコさんがいろんな人と一緒に踊ってるのがTikTokでバズって。ああいうヒットの仕方は夢があるし、レジェンド芸能人の方々もTikTokを使うことで新しいファン層を獲得できる。感動しましたね。大人にもめっちゃ夢があるなって。
WurtS
僕も感動しました。フレデリックは10代20代に人気なのに、って衝撃とともに(笑)。
鈴木
衝撃といえば、トシちゃん(田原俊彦)が六本木ヒルズでBTSを踊るTikTok動画。卒倒しました(笑)。でも、若い世代がそういったレジェンドたちを観て、和田アキ子って歌がうまくてカッコいいなとか、田原俊彦はダンスがうまいなとか、そういうことを知ることができるからいいなって。
「WurtS」というアバターがいる感覚
「自分」と「表現」は分けて考える
WurtS
昔はCDショップに行って試聴機で聴いて発見する感じだったと思いますが、それがいまはTikTokで、スマホ一台あれば。
鈴木
要するに、出会いの場なんだよね。カルチャーのマッチングじゃないけれど。音楽に興味を持ったのはいつ頃ですか?
WurtS
小学生の頃です。ディズニー・チャンネルで『キャンプ・ロック』という映画を観たのがきっかけで。ロック歌手を目指すティーンの話だったんです。
鈴木
確か、独学ですよね?
WurtS
習い事はやったことがないんです。で、アヴィーチー(スウェーデンの音楽プロデューサー)がどうやって音楽を作ってるかとか、そういったディテールを紹介する番組を観たりして自分でも曲を作るようになって。小学5年生の頃からですね。
鈴木
以前、話を聞いたとき、WurtSとしてやってることを友達に一切教えないって言ってたけれど、それも面白いなって。
WurtS
ごくごく一部の、本当に仲のいい人にしか言ってなくて。
鈴木
顔を出してないもんね。
WurtS
その方が楽だというのも一つありますけど、僕自身とは別の「WurtS」というアバターがいるという感覚もあるんです。
鈴木
自分自身を表現したいし発信したい、でも、自分自身を売りたいわけじゃない。「自分」と「表現」は分けて考えるのがインターネットネイティブ世代というか。僕ら世代は、「売れる」というのはすなわち、「顔が出ること」だったけれど、そこが決してイコールではない。SNSが進化したからこそなんだろうなって。
WurtS
あと、音楽以外にもいろんなことをしたいと思っているので「WurtS」のイメージがついてしまうとほかのことが副業みたいに思われてしまうのも違うなって。
鈴木
どんなことをやりたい?
WurtS
映像ですね。ショートムービーです。タテ型の映像にこれからチャレンジしたいなって。
鈴木
いいですねえ、タテのショートムービー。何分ぐらいのものを考えてる?
WurtS
長くて1分。その中で起承転結のストーリーがある映像を作ってみたいんです。8月に出した「リトルダンサー」のミュージックビデオは全編タテなんです。80年代のホラー映画のような感覚で撮って。MVなので3分半ほどありますけれど。
鈴木
ただ、TikTokから外に出たときに、タテ型ってみんな苦戦していて、なかなか正解が出てない。漫画はようやくタテ読みが流行ってきたけれど。なぜタテなの? スマホだと観やすいから?
WurtS
みんなと違うことがしたいということですね。「分かってないよ」のMVも、タテを意識して、真ん中で切って上と下で観る、という構成なんです。これを横にして左右にすると情報量が多くなりすぎる。タテだからこそ観やすいんです。そういうことがわかってきたし、可能性も見えてきたので、実験的にいろいろ始めていて。自分の音楽から脚本を起こして、ショートムービーを作ったり。タテ型を突き詰めていきたいなって。
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